第37話 王女セシル

「お兄さん、どうしたの? 突然大きな声を出して」


 俺の大声のせいで、セシルが何事かと声を掛けてきた。

 何とか誤魔化すべきか、それとも正直に話すべきか。

 少し迷った結果、


「セシル。セシルって、エルフの国の王女様なの?」


 先程ララさんから聞いた話を正直に聞いてみた。


「あー……まぁ、そうなんだ」

「へぇー、そっかー。俺はセシルは貴族令嬢かなって思っていたんだけど、王女様だったのか」

「うん。お兄さんは、ボクが王女だって知って、どう思った?」

「え? いや、別に? あ、もしかして言葉遣いとかを変えた方が良いとか?」

「ち、違うよ! 今のままでお願い」

「そっか。セシルがそういうのなら、それで良いんじゃないのかな?」


 貴族令嬢と王女様だと、またレベルが違うんだろうけど、セシル自身が今のままで良いと言っているのだから、別に何かを変える必要もないよね。

 ただ、王女様か。貴族令嬢に輪を掛けて、身の周りの事が自分で出来ないはずだよね。

 そんな話をしていると、アーニャが近寄って来た。


「リュージさん。セシルさんって、王女様なんですか? それなのに、私も今まで通りで良いのでしょうか?」

「良いんじゃない? セシルが今まで通りで良いって言っているんだし。それに、王女様だって判ったからってセシルが何か変わった訳じゃないしさ。セシルはセシルだよ」

「そーゆー事っ! 流石、お兄さん。というわけで、猫のお姉さんもボクに対して何か態度を変える必要は無いんだからねー」


 セシルからもアーニャに対して、今まで通りでと言っているし、気にしなくても良いだろう。


「さてと。お兄さんがボクの事を知らなかったから黙っていたけど、その気になればこの国の騎士団を動かすように要請出来たりするけど、どうする?」

「騎士団を動かせるなんて凄いね。冒険者ギルドはダメだったし、この町の危機だし、セシルが構わないなら騎士団に動いて貰うのが良いかもしれないね」

「分かったー。じゃあ早速国王宛てに手紙を書こうかな。商人ギルドで手紙が出せるよね?」


 セシルが王女だと知り、暫く固まっていたララさんだったが、商人ギルドの話になってようやく我に返る。


「だ、出せますが……正直に申し上げますと、王都向けの街道が未だ開通しておりませんし、手紙が王都へ着いたとしても、騎士団が通れる道がございません」

「あ、ホントだ。だから、俺たちもセシルに案内してもらって森の中を通って来たんだもんね」

「そっかー。王都に居る騎士団を動かして貰ったとしても、この町へ到着するまで数日かかっちゃうんだねー」


 この町を襲った症状の原因が水だと思われる以上、水を使うなと言って回ったとしても、水道が完備されている規模の町だ。

 生活の中で水は必需品だろうし、水を使わない生活が出来たとしても一日か二日程度ではないだろうか。

 やはり今この町に居る冒険者に動いて貰うのが最善なのだが……先程の反応を見る限り、難しいだろう。

 さて、一体どうしたものだろうか。


「そういえば、ララさん。この町の領主は何か手を打たれたんですか?」

「それがタイミングの悪い事に、領主様は地震が起こる前に王都へ行っており、帰ってこれなくなっているんです」

「あちゃー。それは本当にタイミングが悪いね」


 ある意味では難を逃れたので、個人としては運が良いとも言えるが、領主という立場では運が悪いのか。

 自分の領土が大変な事になっているというのに、おそらく領主はそれも知らないんだろうな。


「ところでお兄さん。お兄さんは、この町の出身とかじゃないよね?」

「え? うん」

「でも乗りかかった船だし、根本解決をして、町の人たちが安全に暮らせるようにしたい……って事だよね?」

「うん。そうだよ」

「じゃあさ、もうボクたちで行こうよ。ポイズンフロッグだっけ? ボクが纏めて倒しちゃうよー」

「ララさんの話では、かなり数が居そうだけど、大丈夫なの?」

「もちろん。ボクに任せて」


 セシルが満面の笑みを浮かべて、自信たっぷりに頷く。

 確かに、セシルの魔法があれば蛙なんてへっちゃらなのだろう。


「じゃあ、そうしようか。あまり時間を掛けている場合では無さそうだしね」

「うん、それが良いよー」

「では、僭越ながら私が道案内をいたしましょう」


 セシルと共に蛙退治に出掛けようとした所で、ララさんも同行してくれると申し出てくれた。

 けど、ララさんがこの町を離れても大丈夫なのだろうか。


「あの、ララさん。ララさんが来てくれるのは非常に心強いんですけど、ララさんが居ない間、町は大丈夫なんですか? はっきり言って、冒険者ギルドの職員があんな感じでしたし」

「アンドレアさんの――冒険者ギルドでの件は、本当にすみませんでした。普段はあそこまで酷くはないのですが、昔騎士を目指して志半ばに道が断たれたという噂を聞いた事があります。そのため元騎士の私に少しきつく当たってしまったのかと。今思えば、私が席を外せば良かったですね」

「いや、そんな事はないですよ。というか、今の話だと、あのオッサンの八つ当たりじゃないですか。ララさんは一切悪くないですし」

「お気遣いありがとうございます。一先ず、商人ギルドの職員も私だけではないですし、私一人が居なくとも、町は大丈夫かと」


 ララさんは自分を過小評価しているみたいだけど、やっている事は凄いと思うんだけど。

 とはいえ、道案内があった方がありがたいのは確かだ。

 ポイズンフロッグ? とかいう魔物だって、俺は見た事がないしね。


「じゃあ、ララさん。すみませんが、協力をお願いいたします」

「いえ、それはこちらの方こそですよ。皆さん、すみませんがよろしくお願いいたします」

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