第28話 グレーグンの町の非常事態
「ちょ、ちょっと待ってください。落ち着いてください」
「ポーションを……ちゃんと代金は支払いますので、少し分けてください。少しで良いんです。持って居ませんか?」
「ポーションはありますから、先ずはこの町に何が起こっているのか教えてください」
結構胸の大きなお姉さんだし、顔色が普通で、こんな危機迫る感じでなければ凄く嬉しいやり取りだったのだろうけど、流石に怖い。
一体、この町に何があったのだろうか。
ポーションがあると言ったからだろうか、少し落ち着いたお姉さんが、ギルドの奥にある商談席らしき場所へと案内してくれた。
……しかし、ギルドの中にも殆ど人が居ないんだな。
一応、ギルドの職員らしき人が数人見えるけど、俺たちを物凄く珍しそうにチラチラと見てくる。
「あの、この町の話をする前に、お客様たちはどちらから来られたのですか?」
「モラト村ですが」
「モラト村!? では、先日の地震で崩れたという街道が通れるようになったのですね!」
「あ、違うんです。俺たち、街道が通れないって聞いたので、森の中を突っ切って来たんです」
「森……って、あの迷いの森を通って来たんですか?」
迷いの森? 確かに薄暗くて同じ風景ばっかりだから、俺もセシルが居なければ迷っていそうだけど、そんな名前で呼ばれていたのか。
「おそらく、その森です」
「なるほど。街道が通れるようになった訳では無かったんですね」
なんだろう。街道が通れないのは不便だけど、そんなに落ち込まなくても良いと思うのだが。
「あの、大丈夫ですか? 気分が優れないのでしたら、先にポーションをお渡ししましょうか?」
「いえ、私は大丈夫です。ですが、数日前に起きた地震の後から、町の人たちの顔色がどんどん悪くなり、体調も悪くなって、何かの呪いではないかと、怖がって人が外に出なくなってしまったんです」
「地震の後、呪い……ですか?」
「呪いというのは、あくまで町の人たちが言っているだけですが、でも町の人たちの体調が崩れていっているのは本当なんです。幸いな事に亡くなった方は居られませんが、寝込んでしまっている方も居られまして」
「そうなんですか……」
ふむ。一応、アーニャの呪いを解いた事もあるし、あの時のポーションを作ってみようか。
「お兄さん。これって、何かの病気とか、流行病じゃないの?」
「流行病か。それはあるかもしれないね。……って、俺たちもこの町に居て大丈夫か!?」
「ま、待ってください! この町がこういう状態なので、引き止める事は流石に出来ませんが、せめてポーションを……ポーションを売ってくださいぃぃぃ」
せっかく落ち着いていたお姉さんが、再び取り乱して迫って来た。
胸が……胸が当たってるってば!
「えっと、一先ず呪いか病気かを調べさせてくれませんか? それによって効くポーションが異なるので」
一先ず、お姉さんを引き剥がし、何のポーションが欲しいのかを聞くと、目を大きく見開いてキョトンとされる。
「……調べるって、どうやってですか?」
「あのねー。お兄さんは凄い薬師でありながら、お医者さんでもあるんだよー」
「えぇっ!? 薬師様でお医者様なんですかっ!? お願いしますっ! お金は出来るだけ用意いたしますから、この町を……グレーグンの町を救ってくださいっ!」
近いっ! お姉さん、顔が近いよっ!
お姉さんが俺の手を握り、目をキラキラさせながら見つめてくる。
だけど俺は、医者は医者でも、お医者さんごっこなんだよなぁ。
しかし、困っている人が大勢居るというのなら、放っておくわけにはいかないだろう。
「アーニャ。少しだけ、この町に滞在しても良い?」
「もちろんです。目の前に困っている人が居るのに、見捨てたりしたら後味が悪いですしね」
「わかった。……お姉さん。先程言った通り、何のポーションが効くのかを知りたいので、誰か症状が出ている方を紹介してくれませんか? ……出来れば、男性の方で」
俺のスキル、お医者さんごっこ「診断」は、触診――胸を触らないと発動しないんだよ。
緊急事態なら仕方が無いけれど、出来るだけ変なトラブルを起こしたくないのだけれど、
「男性……ですか? 探せば居るかもしれませんが、症状が出ているのは、体力の少ない女性や子供が圧倒的に多いんです」
「そ、そうですか。では、男の子を紹介してもらって……」
「あの、それよりも私ではダメですか? まだ軽い方ですが、一応町の人たちと同じ症状ですので」
「えっ!? そ、それは、こっちは構わないんですけど、その……」
「じゃあ、決まりです! 早く症状が分かった方が、早くポーションを売っていただけるんですよね? だったら、今すぐ私を調べてください」
お姉さんがぐぃっと詰め寄って来たので、思わず視線が大きな膨らみに行ってしまう。
とはいえ、お姉さんが言っている事は間違っていないし……仕方が無いか。
「では調べるので、ついて来てください」
「ついて来て……って、ここではダメなんですか?」
「えぇ。調べる為の設備が必要なので」
「はぁ、そうなんですか」
気の抜けた返事をしてきたものの、お姉さんが俺についてくる。
いつも通り歩いているセシルと、これから何をするか分かっているので、ジト目になっているアーニャに挟まれながら、俺は適当な空き地で実家を呼び出した。
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