第18話 貴族令嬢!?
「お兄さーん。お風呂終わったから身体を拭いてよー」
お風呂へ入っても自分で身体を洗った事が無いセシルなので、カラスの行水かよって早さで入浴を終える。
どうしよう。昨日の俺は何も知らずにセシルの身体を拭いて、更に服の着替えまで行ってしまったが、もう無理だ。
貴族の息子だと思っていたセシルが、エルフの貴族令嬢――女の子だと知ってしまったので、裸を見る訳にはいかないだろう。
「アーニャ、頼む。俺の代わりにセシルの着替えを手伝ってあげてくれないか」
「それくらい構わないですが……セシルさんはご自分で着替えられないんですか?」
「うん。本人からは何も聞いていないけれど、十中八九貴族なんだよ」
「なるほど。それなら全部メイドさんがやりそうですもんね。分かりました。じゃあ、少し待っていてください」
アーニャが脱衣所へ入り、暫くして二人が出てきた。
ちなみに、意図して隠しているのか、それとも偶然そういう髪の毛の長さなのか、セシルの髪の毛が耳を覆い、先程チラッと見えた長い耳――エルフの耳は今も見えない。
けど、おそらくセシルがエルフだと言うアーニャの意見がきっと正しいのだろう。
俺はセシルが女の子だって事にすら気付けなかったしね。
「もう、お兄さん。どうして一緒にお風呂へ入るのを急に止めちゃったの?」
「え? あー、まぁその、いろいろあったんだ。とりあえず、これからは一人で入れるように練習していこうな」
「お兄さんと一緒に?」
「えーっと、アーニャにお願いしようか。悪いけど、アーニャお願い出来る? 代わりに掃除だとか、洗い物くらいは俺がやるからさ」
突然話を振られて驚いていたけれど、一先ず了承してくれた。
少し前まで妹の世話をしていたらしいし、俺がやるよりはるかに良いだろう。
というか、俺がやる訳にはいかないからね。
「じゃあ、ボクは本を読んでるから」
お風呂を終え、セシルが再びラノベの世界へと浸る為にリビングへ行った後、アーニャが目を大きく開き、パクパクと声にならない声を上げる。
「……あ、あの、本があるんですか?」
「ん? あるよ。アーニャが夕食を作っている間に、セシルが読んでたでしょ。いっぱいあるからアーニャも何か読む?」
「よ、読んで良いんですかっ!?」
「もちろん良いよ。三階にあるから案内するよ」
アーニャを連れて俺の部屋へ行くと、
「ほ、本がこんなに!? 調味料といい、この本といい、やっぱりリュージさんもセシルさんと同じ貴族なんですか?」
「いやいや、俺は違うって。それより、アーニャはどんなのが好みなの? ちなみに、セシルはラブコメを読んでいるよ」
「ら、ラブコメ? あの、私は一応文字を読み書き出来るのですが、あまり得意ではないので、字が少なめの方が嬉しいです」
「字が少ない方が良いのなら、ラノベじゃなくて漫画にしようか。冒険ものとか、バトルものとか……でも、女の子だから恋愛ものの方が良いかよね。でもラブコメならあるんだけど、恋愛ものって持ってないんだよな」
「えっと、よく分からないので、お任せします」
本棚に収納された本を見て、俺まで貴族扱いされてしまった。
このリアクションで本が貴重な世界なんだと分かったけれど、一方でセシルは全く気にしていなかったので、やはり貴族なんだと確信してしまう。
セシルは、貴重だという本をいっぱい読んできたって言っていたしね。
「あ、そうだ! ちょっと待ってて!」
思い出した事があって、アーニャを部屋で待たせたまま芽衣の部屋へ。
確か、この辺りに……あった!
「じゃあ、一先ずこれなんて良いんじゃないかな。原作は読んだ事が無いんだけど、アニメは見たんだー。何て言うか、登場人物を応援したくなるような、優しくなれる作品だよ」
「……アニメ?」
「あ、いや。それはこっちの話だから気にしないで。とりあえず、読んでみてよ。分からない所があったら、聞いてくれれば教えるから」
芽衣の部屋の本棚にあった、アニメ化されている有名な少女漫画をアーニャに渡し、一緒にリビングへと降りてきた。
原作は読んだ事がないけれど、アニメが物凄く良かったし、きっと大丈夫だろう。
主人公の女の子が超ピュアで努力家な上に、彼氏になる少年がめちゃくちゃ爽やかなイケメンなんだよね。
いや、こんなイケメンな青春を送りたかったよ、マジで。
「じゃあ、ここで寛いでいて。次は俺がお風呂へ行ってくるから」
……
身体を洗い、湯船に浸かりながらボーッと考える。
異世界ものやファンタジーもののラノベなんかに出てくるエルフの定番と言えば、耳が尖っているとか、魔法が得意とか、森を愛しているとかだ。
セシルは森を突っ切れると言っていたし、初めて会った時も林の中で寝ていた。
植物にも詳しいし、でも薬草とかの摘み過ぎはダメだって言うし……うん、言動もエルフだね。
あとラノベなんかでは、エルフは長寿で、実年齢と見た目が合っていないって事が多いけど、セシルは何歳なんだろう。
中学生にしか見えないアーニャが二十歳って言っていたし、もしかしてセシルも二十歳くらい……いや、もしかしたら俺と同じくらいだったりするのだろうか。
まだまだ異世界どころか、一緒に旅をしている二人の事も全然知らないんだなと改めて感じ、もっと互いの事を知る方法は無いだろうかと考えてみる。
……が、残念ながら出ない。
とりあえずお風呂を出てアーニャと代わり、暫くしてそろそろ寝ようかという話になった時、
「じゃあ、お兄さん。一緒に寝よー」
「え? ど、どうして?」
「どうしてって、今朝ボクと一緒に寝てくれるって言ったよね。お兄さん」
満面の笑みで、セシルが近寄って来た。
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