異世界誤召喚!? 城魔法スキルで実家と共に異世界漫遊

向原 行人

第1章 間違いだらけの異世界召喚

第1話 斉藤クリニック

 少しだけ、俺――斉藤竜司の愚痴を聞いてもらっても良いだろうか。


 就職して十年。三十二歳になった俺は、課長代理という管理職でも無いのに仕事の責任を押し付けられる微妙な立場に居た。

 毎日、管理者からは数字を求められ、部下からは不平不満だらけのあからさまにモチベーションの低い姿勢を見せられる。

 その上、客の前に立つのは管理職では無く俺なのに、給料は低い。

 働き方改革とかで、部下が定時で帰ってしまうから、終わらない仕事は俺が毎日一人で残業して対応……って、おかしいだろっ!

 このままではダメだ。

 今度の週末、久々に実家へ帰って可愛い姪――真衣ちゃんに癒してもらおう。

 そう考えて数ヶ月振りに東京を離れ、大阪にある実家へ帰って来た。

 ここまでが今朝の俺だ。そしてここから、俺の身に予想外の問題が振りかかる。


「ただいまー……って、誰も居ない!? 何故だっ!?」


 俺の実家は斉藤クリニックという小さな診療所をやっている。

 父親が医者で母親が薬剤師。おまけに妹が医療事務という医療系の一家にも関わらず、俺は全く関係のないブラック企業のサラリーマンになったのだが……それはさておき、家に誰も居ないというのはおかしい。

 町医者として一人で周辺住民の健康を見ている親父はクソ忙しい。

 いつも土日も関係無しに、一階のクリニックには近所の人が溢れているのだが、誰も居ない。

 何か事故でもあったのか? だったら、警察などから俺に一報が入ってもおかしくないと思うのだが。

 しかしクリニックも、二階と三階の住居スペースにも荒らされた様子は無い。

 俺が知らない内に廃業でもしたのだろうかと、クリニックの入口へ回ってみると、


『お知らせ。以前より周知しておりました家族旅行のため、数日間お休みします』


 と書かれた張り紙が貼ってあった。

 ……って、旅行かよ! まぁ家族旅行なんて一度も行った記憶が無いし、たまには良いんじゃないかね。

 俺から見れば姪で、親父から見ると孫にあたる真衣ちゃんはめちゃくちゃ可愛いからな。


「さて。久々に実家へ帰って来たのに真衣ちゃんは居ないのか。……一人で何をしよう。久々に実家のラノベでも読み返そうかな」


 家に異変が無いと分かったのは良かったものの、急にやる事がなくなったなと、住居側の玄関へ戻って来た所で、突然激しく家が揺れ始めた。


「なっ!? じ、地震かっ!?」


 幸いな事に今居る場所は玄関で、まだ靴も履いているので今すぐ扉を開けて外へ……


「って、なんじゃこりゃぁっ!」


 玄関から一歩出ると、見慣れた実家周辺の景色ではなく、薄暗い何処かの部屋の中だった。


「おぉ……この青年が我らを救ってくれるのか」

「はい。我が召喚魔法にて、最高の白魔道士を呼び寄せました」


 誰だよ。というか、ここはどこだよ。

 すぐ後ろを振り返ると、何故か俺の家が見当たらず、代わりに変な格好をした見知らぬ爺さんとオッサンが俺をしげしげと眺めている。

 改めて周囲を見渡すと、石畳の床に意味不明な模様が描かれている、八畳程の部屋だ。


「突然、申し訳ない。我らは北方教会に仕える者なのだが、異世界の青年よ。どうか我々を窮地から救ってはくれないだろうか」

「異世界の……それに床の魔法陣みたいなの。それに見知らぬ場所……まさか、まさかとは思うが、召喚なのか!?」

「その通り。そちらの世界にも似たような魔法があるのであろう。話が早くて助かる」


 いや、魔法なんて無いから! 俺が知っているのは、ラノベやアニメの中の話だから!

 よくよく話を聞いていくと、この国の王女様があろう事か、魔王討伐の旅に出ると言い出したらしい。

 一度言い出したら周囲が何を言おうと聞く耳を持たない王女の為に、各関連組織へ王女をサポートする最高の人材を用意するようにと国王が厳命を出したのだとか。

 それに従い、冒険者ギルドは最前線に居る最強の剣士を連れ戻し、魔法学院は名実共に伝説級の黒魔道士――ウィザードを出すと約束していた。

 その一方で、教会としても最高の白魔道士を出さなければならないのだが、今の教会に居る高位司祭――ハイ・プリーストは政治的な活動が主で、魔王との戦いに求められるような役割である、白魔法を得意とする者は殆ど居ないそうだ。

 で、困った末に考え出した答えが、「召喚魔法で異世界から最高の白魔道士――クレリックを呼び出す」だと。


「そこまでは分かった。で、何で俺なんだ?」

「それは、貴方が最高のクレリックだからです。使えるんですよね? 白魔法――回復魔法を」

「いや、全く。というか俺が元居た世界は、白とか黒とか以前に、魔法自体が存在しない世界なんだが」

「冗談ですよね? だって、最高のクレリックを指定して召喚したんですよ!? それに、召喚魔法の事も知っていたじゃないですか」

「召喚魔法はよくあるフィクションや設定だからだって。悪いけど、回復魔法なんて本当に使えないぞ」


 如何にも魔法使いですと、全力でアピールしているかのような、長い杖を持ったオッサンが俺の言葉で焦り出す。

 ゲームなどのおかげで魔王討伐とか回復魔法だとか、言いたい事は分かるが、無理な物は無理だ。

 最高のクレリックだなんて言われても、両親や妹はともかく、俺には医療知識なんてこれっぽっちも無い。


「……って、最高のクレリック!? ちょ、ちょっと待ってくれ。俺の家は、斉藤クリニックって名前なんだが、まさか……」

「えっ!?」

「えっ!?」


 最高のクレリックと斉藤クリニック……いや、間違うか!? というか間違えるなよ!

 どうやら俺は手違いで異世界へ召喚されてしまったらしく、しかも元の世界――日本へ送り返す術を、このオッサンは知らないらしい。


「そ、そうだ。一応、スキルを調べてみましょう。元の貴方は回復魔法を使えなかったとしても、異世界へ来た時に新たなスキルが覚醒するというのは良くある話なのです」


 まぁそうだな。いわゆるチートって奴だ。

 実家にあるラノベなんかにも、そういう設定の話は確かにある。


「ステータス」


 魔法使い風のオッサンが何かの魔法を使用すると、俺の目の前の空間に銀色の枠が浮かび上がる。


『サイトウ=リュージ

 三十二歳 男

 属性適性:土

 保有スキル:城魔法』


「……城魔法って何だ?」

「……し、白魔法の誤字ですかね? お、おかしいなぁ」

「召喚条件って言うのかは分からないが、最高のクレリックを斉藤クリニックって誤っているし、間違え過ぎじゃないのか?」

「そ、そうだ。一先ず、白魔法の基本である『ヒール』と言ってみてください。きっとただの誤字で、貴方には白魔法の才能があるに違いありません」


 何故かオッサンが泣きそうになっているのだが、本当に泣きたいのは俺の方なんだが。

 誤字で召喚されたあげく、意味不明な城魔法って。

 一先ず、言われた通りに手をかざし、


「ヒール」


 悲しいくらいに何にも起こらず、俺の声だけが部屋に響いた。

 この異世界転移……残念過ぎるだろ。

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