肆:紅顔の王と無貌(むぼう)の兵・Ⅲ(後段)《記録中断》
「無人機の支配……ですか? それは、現行の研究員たちの方針に反しませんか?」
ドクターの発言に、プリンテッサが訝しげな表情を浮かべる。
しかしドクターは、先程口にした言葉の力強さは何処へやら。特に表情を動かすことも無く、情緒面の揺らぎも見せず、ひたすらに平坦な雰囲気を漂わせている。
「ああ、そうだ。だが必要な事だ。君たちフレームライダーを護るためには」
「……あー、私達が破棄される危険性と、私達が一般社会に出ることの危険性から、だね?」
特に驚きもせず、初めから分かっていたかのように、スルーガは苦笑を浮かべていた。
「そうだ。よく分かったね」
ドクターも、最初からその反応を確信していたように微笑する。
「そりゃあね。さっきの実験戦闘中にもプリンテッサと話したんだけど。もしも戦闘に不要になった場合、私達の“性能”は一般社会だと持て余すから。どう考えても一悶着あるでしょ」
スルーガは呆れたように笑い、視線をプリンテッサへと向ける。彼女は肯くと、その言葉の最後を引き継ぐように口を開く。
「そして。その悶着を一挙に解決する冴えたやり方は、戦闘兵器の備品として一纏めにして、私達を含めた『商品の兵士』たちを“廃棄”すること」
「その通り。そして、もしもこの無人制御機による『命のやり取りの無い戦い』が成功してしまえば、それが現実のものとなり、商業化された戦争は本当に只のゲームに成り下がる。罪深い話だが、それは回避しなければならない」
「ふふふ……」
スルーガが笑う。
「スルーガ?」
ドクターとプリンテッサが目を向ける。
「いやさ。その手の団体が聞いたら発狂しそうな話よねぇ。命のやり取りをする戦争を守る、なんてさ。例えそれが、ドクターなりの罪滅ぼしだとしても」
「まあ、確かにね。でも私達には、それが必要。それでドクター。無人機を支配するという事ですけど。具体的に、あの『騎兵の王』の完成形はどう言うものになるのですか?」
「ああ、すまない。そこが重要だな。小難しい話は抜きにして端的に言おう。最終的には
「有人無人に関係なく? それはまた、何故です?」
「暴走の事例を極限まで減らし、人的資源の無用な損失を減らせるようにする。現状のより円滑な運営のために。そして、テロリスト達の凶行を容易に止められるように」
そう語って聞かせるドクターの目線は、どこか遠くを見ているように思われた。
「ねえ、ドクター。それ本心?」
一方のスルーガは、その目線の遠さを無視するような口調で言うと、クスリと笑う。
「本心さ。不思議なことを言う。それ以外にありはしないよ。どうだい? 協力してもらいたいんだが」
カップを窓際の縁に置き、ドクターは二人を真っ直ぐに見据える。
プリンテッサはその視線を正面からゆったりと受け止め、スルーガは肩をすくめながら視線を返した。そして頷く。
「もちろん協力いたします。スルーガは?」
「面白そうだから、乗るよ。次の実験から、機体の制御データの一部をドクター向けに保存しておくって感じで良い?」
「話が早くて助かる。宜しく頼むよ。さて……」
そう言うと、ドクターは窓際から離れ。
「話が長くて冷めてしまったな。淹れ直して、普通に雑談でもするとしよう。アレの使い勝手がどうとかも、開発者としては聞いておきたいからね」
そうしてそのまま、給湯室へと姿を消したのだった。
この研究は始まったばかりである。この先、どのような結果を迎えるのかは、この時の誰にも、まだ分からなかった。
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