第11話

第11ー1話新学期と今後の事

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 母から電話があれからすぐ掛かって来て、何かと思えばこの間の、秋の母親の話についての続きらしいと伺われました。

 あの後、少ししてから秋の荷物で家に残っている物が全部郵送で送られて来たので、文句を言いに淡雪さんが怒鳴り込みに行くと言った手前、秋と一緒に行ってみればそこはもぬけの殻でした。


 それで父親にも頼る訳にはいかないけれど、一応報告だけはしたそうで、そうしたら父親は同情してくれたようで、やはり母親には複雑な感情があるらしく、あれは病気みたいなもので周りの者が相当迷惑を被るんだ、だから何もかもって訳にはいかないけど出来るだけ援助はさせて欲しいと言われたようで、報われたみたいにわたしも思った記憶があります。


 ああそれで電話の内容ですね。

 そうです、母はどうやら秋の母親みたいな人に対して懸念を強く示しているのは、わたしとやはり親子だからか、同根の感情を持っているのだと推測されます。で、それで何かと言えば、日本にいればそうそう秋の母親みたいな人間を普通の生活で増えて来たとは言え目撃する事もないのだけど、海外では大分緩くなって来ているものの、まだまだ地域によれば根強く宗教保守派がいるし、性的マイノリティを狙った殺人なども横行しているとの事です。

 マイノリティが集まる場所へのテロなどもありますし。この宗教に正当性を求められたら、わたし達はもうどうしようもないと言うか、説得の類は全て徒労ではないかと思われるのですね。


 母も最近病院に運ばれた患者に対して、家族が極端な治療拒否などでトラブルになるケースが多くなっていると、この前もちょっと言っていましたが、電話でも同じ事で悩まされると語ってくれたのです。


 それに加えて、段々カルト的な派閥も増えて、そんなに歴史がないにも関わらず、伝統的な家族観だとか、純血などあり得ないのに純粋民族の概念を信奉している人や、データで反証されているのに、同性愛者に権利を与えたら出生率が下がるとか、社会秩序が乱れるなんて言う政治家がいる始末ですから、確かに学校ではまだそんな迫害には遭いませんが、今の世の中にも偏見や差別は存在するのだと思います。

 大体、わたしの姉は理解を得られずに自殺しようとしたと言えるパターンだとわたしは考えてしまいますしね。


 そう言う諸々の問題点や、今後の為にやる書類仕事の事を教えて貰い、秋にそれを伝えてから、住民票やら学校への届け出やらを書く事になったのですが、秋はその時にヘルプストナハトの名前を嫌だと言うようになり、どうせなら月夜と早く結婚出来れば同じ苗字にもなれるのに、なんて弱気な事まで言い出してしまいました。


 わたし達は色々増えていっているパートナーシップ制度を利用するしかないと思われるので、戸籍の上で同じ苗字にするのは多分無理ではないかと思われます。と言っても、わたしはパートナーシップ制度の方がいいし、別姓のままでいる選択肢が存在しているのもいいので、それをもっと何とかして貰えないかと思っているのですが。勿論、各種保証は婚姻と同じ条件になるフランスとかの制度に倣う方向で、一元化されずに、色々な制度があって選択肢が増えた方がいいと思うからです。

 前にも秋に言ったように、わたしは婚姻制度に全てが取り込まれるのは嫌だなと思っていて、戸籍制度自体が見直されるべきではないかなとも思っているし、契約であるならばもっと柔軟に制度を応用出来るようにすべきだと考えているからです。


 そんなこんなで、あれこれ考えたりやっている間に、すぐに新学期が始まってしまいました。早めに宿題を終わらせる習慣があって、心底良かったと思いますよ。


 わたしはと言えば、何だかあれだけ秋から接触されて求められてから、どんどん恥ずかしくなってしまって、お風呂に一緒に入るのも緊張度合いが増していますし、あまりこっちから求める事をしなくなってしまいました。

 よく考えれば、これまでが暴走していてどうかしていたのであって、本来のわたしは極端に内気でストレートに物を言えない人間なのです。

 だから学校に行く時も、秋にお願いされたので、モジモジしながら真っ赤になって、手を繋いでいたんじゃないですかね。


 登校の為に歩いていると、〈ヴィレッジ・グリーン〉の前で、店の前で置いてある花に水をやっている紺さんとばったり出会いました。


「おや、月夜さん。随分ご無沙汰でしたね。おや? なるほど、仲良き事は美しきかな、ですね。心の触れ合いや身体の触れ合いは、ストレスを軽減する作用があるとも言いますしね。では、あの時のグラスは役に立ったと思えばいいんでしょうか。私はいい仕事が出来ましたかね」


 体の触れ合いと聞いて、わたしは一瞬ドキッとしてしまいましたが、何とか冷静を装って返事をまともに返します。


「え、ええ。それはもう。でも秋はわたし達が暗喩的にコップに込めている思いは、全く気づいてないんですけどね。紺さんの偶然の作用はわたしにはビビッと来たのに・・・・・・」


「え? 何の話? コップっていつも使ってるやつかな。何かあれ、意味があるの?」


 もうこの人は鈍感なんですから、と思いつつも教えてあげないわたし。


「ちゃんと自分で考えてよね。まさか何も考えずに使ってるなんて。鈍感なのは前から気づいてたけど、もうちょっと何か感づいてもいいのになぁ」


 はあと紺さんと仕方がない人ですよね、と頷き合います。意外と紺さんって付き合いがいいのですよね。

 エミリーの杓子定規な態度とは違って、かなり臨機応変な対応をしてくれると言うか、AIってここまで進歩してるんだと感動してしまいます。

 まぁ、無愛想どころか狐のお面をしているし、固い話し方ではあるのですが。


 ポカンとしてる秋に、もう駄目だと思いながら、手は離さずに先を急かします。


「ほら、早く行くわよ。遅れたら何言われるかわからないでしょう」


「そうだね、じゃあまた。何だか、月夜、急に不機嫌じゃない? さっきの話に何だかご執心みたいだし」


「いいから」


 バッサリ言っておいて、わたしは先を急ぎます。

 それに引かれて秋もついて来るのですが、困惑気味なのは相変わらずで、それはもう慣れたのでまぁ仕方がないとは思っています。



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