お猿の行列

 むかしむかしあるところに、小さくて弱くて貧乏な国がありました。この国は実りの少ない土地ではあったのですが、お殿様は気前の良いお方だったため、年貢は少ないため、民は飢えず、充分以上の食糧のもと、幸せに暮らしておりました。ある日のこと、お殿様が部下の武士達と一緒に、趣味の山登りに行きました。お殿様達は山の景色を楽しむと、お昼に食事を始めました。眺めの良いところで食べるおにぎりは、格別の味がしました。すると、その時、お殿様達は、猿の群れに遭遇しました。猿達はお腹を空かせており、おにぎりを狙っています。

 するとお殿様は、部下達から離れて、自分のおにぎりを猿達に分け与えました。この猿達は餌を獲るのが下手で、一時的にとはいえ、飢えているのを放っておけないと考えたのです。お殿様にとって、領地のものは、人間のみならず、猿もまた、大事な仲間だと思えたからこその行動でした。猿達は美味しそうにおにぎりを食べると、元気を取り戻しました。お殿様は、それだけでは不安だからと、猿達についていき、上手に餌が獲れるようになるまで、助けてあげました。暫くして猿達は餌を獲れるようになり、お殿様は安心して部下達と帰りました。

 さて、それから暫くして、お殿様に呼び出しの声がかかりました。上司である、一番偉いお殿様のもとへ、ご挨拶に来なさい、というお達しでした。お殿様は早速準備に取り掛かりますが、小さくて弱くて貧乏な国のため、人は集まらない、武士がそもそも少ない、立派な着物や馬や宿の代金を払うための費用が集まらないという有様でした。このままでは、お殿様は一番偉いお殿様から無礼者として扱われ、挙句の果てに家は取り潰しということにもなりかねません。お殿様が困っていた時、ふいにお城へと人影が沢山集まって来ました。それは猿達でした。

 猿達はお殿様が困っているという話を聞いて、駆けつけたのです。猿達はお殿様のために不足の人手に代わるべく、武士の格好になりました。更に機を織ってお洒落な着物を作る猿もいれば、野生の馬を引っ張って来て調教しておく猿もいるし、砂金を集めて宿代にする猿もいるというのですから、お殿様は大助かりです。こうしてお殿様は部下の武士とお猿の武士を揃えて、一番偉いお殿様のもとへ、ご挨拶にと向かっていきました。道行くお殿様達を見て、人々はびっくりしました。大名行列は大名行列でも、これはお猿の大名行列だったからです。

 騒ぎは各地で広がり、一番偉いお殿様の国中にまで響き渡りました。人々はお猿の大名行列を見たさに町中で待機するほど熱心な人の集まりまで現れるほどとなりました。小さな国のお殿様はあまりの盛況ぶりにびっくりです。これを見た一番偉いお殿様は、民からの好評ぶりに大満足しました。一番偉いお殿様は大喜びで、「民達を楽しませてくれた礼じゃ」と気前良く褒美として、山のような宝物を授けてくれました。小さな国のお殿様は礼儀正しく宝物を受け取ると、部下、民、それから何より猿達に沢山与え、自分は小さな猿の人形で満足しました。

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