第24話 文月栞と体育祭。【開会式・玉入れ・借り物競走編】
いよいよ体育祭が始まる。
校長先生の長い話でまず数人が貧血で倒れ、生徒会長である
……開催早々いきなり人減ったな。
さて、開会式も終わったし、競技が始まるわけだが。
「生徒会長、まずはどの競技からやりましょうか?」
「そうですねえ」
などと、放送席で放送委員と神楽坂先輩が呑気に話をしている。
「いや、生徒会長の権限で競技の順番決まるの?」
「当然です。この学校は生徒会が実質支配しているのですから」
私の疑問に、
この学校、やっぱりおかしい……。
そう思っている間にも、競技が決定したらしい。
「ここは無難にパン食い競走とかでしょうか?」
「あー、残念。衛生管理の問題がありまして今年からパン食い競走中止なんですよ」
その放送委員の言葉を聞いて、ピシッと固まった者がいる。
「!! 自分の今日の食料が……」
「
パン食い競走のパン目当てだったのか……それは倹約し過ぎだろう……。
「では、この移動式玉入れというのはどうでしょうか?」
神楽坂先輩は競技のメニューが書かれているらしいボードを指差しながら放送委員に指示を出す。
「移動式玉入れ入りましたァー!」
マイクが壊れんばかりの割れた音声。
この放送委員のテンションの高さ、何?
「ルールを説明いたします! 移動式玉入れとは、各組の代表がかごを背負い、走り回って相手組の玉から逃げる競技です! 要はA組の代表はB組に玉を入れられないように逃げてください! 逆も然り!」
「ふふ、面白そうな競技ですね」
ルールを聞いた生徒会長は朗らかに笑う。
「アンタは見てるだけだからさぞかし面白いだろうなァ……!」
「B組はおそらく
「銀城先輩がかごを背負うとなると、一般の生徒では到底追いつけない……でもこっちは三人いますから、一人がかごを背負って逃げている間に二人がかりで銀城先輩のかごに玉をブチ込む……!」
桐生先輩と私は冷静に対処法を探る。
「よし、俺がかご役をやるよ。普段から鍛えてるからスタミナには自信あるんだよね」
と、曽根崎が名乗り出た。
「は? 当方も体力には自信がありますが?」
「そこで張り合わないでください! ほら、曽根崎くん、かご取りに行って!」
私は叱責し、曽根崎にかごを取りに行かせる。
その間、私は桐生先輩と取り残される形になる。
「桐生先輩も体力あるんですね」
とりあえず何か話をしようと、私が桐生先輩に話題をふる。
「それなりに鍛えております」
「女の体力で銀城先輩に追いつけるか心配だから、期待してますね」
「……」
桐生先輩は黙ってしまった。
せっかく話しかけてるのに無視か? お?
しかし腹を立てるより前に、運がいいことに曽根崎がかごを抱えて帰ってきた。
曽根崎が持ってきたかごを背負い、いよいよ移動式玉入れの用意が整う。
「皆さん、準備はよろしいでしょうか!? ――それでは、スタート!」
放送委員の言葉を合図に、生徒たちは地面に散らばった玉を拾ってかごを追いかける。
しかし、私たちにとって思わぬアクシデントがあった。
「あれ!? かご背負ってるの、銀城先輩じゃない!?」
B組のかご係は銀城先輩ではなく、まったく知らない別人であった。
「やられましたね……何もB組で体力があるのは二ノ宮銀城くんだけではない。あれは陸上部の部員です」
桐生先輩も想定外だったらしく、口調は平静だが眉間にシワが寄っている。
「じゃあ、銀城先輩は――」
「逢瀬、体力勝負で自分に勝てると思うなよ」
「ゲェッ、銀城ゥ!?」
銀城先輩は大量の玉を両腕に抱えながら曽根崎を追い回していた。
あれでは大量得点されかねない。ちょっとしたピンチである。
「と、とにかくこっちも玉を入れないと!」
「……
「は、はい!」
焦った私に、桐生先輩は至極冷静に指示を出してくれた。
私は桐生先輩の指示通りに、玉を一箇所に集めて一気に抱え込む。
桐生先輩はその間にかご役の生徒を、生徒たちがひしめきあって狭くなった場所に追い込む。
身動きの取れなくなったかごに、私が抱えた玉をブチ込んだ。これで高得点だ。
桐生先輩、頭脳派だな……。
一方の曽根崎と銀城先輩。
曽根崎はA組の生徒の中に紛れることで物理的な壁を作っていた。
「くっ……」
銀城先輩は生徒を突き飛ばすわけにもいかず、苦戦している。
やがて、試合終了のホイッスルが鳴った。
「試合終了ーッ! かご役の生徒はかごの中の玉を数えてください!」
放送委員の指示に従い、ひとつずつかごのなかの玉が投げられていく。
「あれっ!? いつの間にこんなに玉が……!?」
曽根崎の言葉にかごを見ると、たしかにA組の群れに守られていたはずの曽根崎のかごには想定外に玉が入っていた。
「
「えっ、
神楽坂先輩の言葉に、私は思わず失礼な発言をしてしまった。
「えっと、開会式の時点で人数が減ったので、僕も競技に参加していいことになって……」
猫春は恥ずかしそうに頭をかく。
「昔から、影が薄いとか目立たないって言われてますけど、こんな形で役に立つとは……」
つまり、猫春はA組に紛れて密かに玉を拾い、曽根崎のかごに一人で玉を入れ続けたわけである。
「中島、君を侮っていたようだ。無礼を詫びよう」
「い、いえ、そんな……」
銀城先輩は素直に猫春を認め、二人は固く握手を交わした。
その後も、障害物競走、綱引き、玉転がしなど、どんどん競技が行われていく。
借り物競争での一幕。
「栞ちゃん、メガネ貸して!」
『メガネ』と書かれたカードを見せながら、曽根崎が私に駆け寄ってくる。
「いいですけど」
私は素直にメガネを外して曽根崎に貸す。
「うわ、メガネとった栞ちゃん、さらに美人……」
「いいからさっさと行けよ」
見惚れる曽根崎に、鬱陶しいと手で追い払う。
そして、競技終了後。
「メガネありがとう~。返すね」
曽根崎から手渡されたそれを見て、私は思わず曽根崎の尻を蹴る。
「テメェ、メガネのレンズにベタベタ指紋つけてんじゃねえよッ!」
「ギャインッ!」
曽根崎は腹を蹴られた犬のような声を出す。尻なので身体に害はないが、まあ痛いのに変わりはない。
「文月栞、また女子を敵に回していますよ」
桐生先輩の声に、ハッと女子たちの方を見ると、彼女たちは鬼のような顔をしていた。
そんなこんなで、午前の種目は終了。
私たちはお昼休憩に入るのであった。
〈続く〉
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