新しいわたし


わたしが初めてわたしになったのは

その明確な時期は覚えていないが

とにかく気付いた時にはもう既にわたしはこのわたしだった

そいつが

「いらっしゃいませー」

とかぬかして

時給、千円を得るわけだ

なるほどな

もう二度と

わたしになる前の

あのわたしには戻れないのかな?

それは残念だ

ある日くるんとたこ焼きみたいに

わたしの中身が引っくり返ってしまった

勘弁してくれ

そう思ったけど

三秒後には

まいっか

って

また明日になれば元通りだろ?

って

甘かった

明日も明後日も

それどころか来週の火曜日になってもまだ引っくり返ったままだった

そして表と裏は逆転した

ふと

(………あれ、わたしって最初からこんなじゃなかったっけ?)

って

勘違いする始末

こんなのわたしじゃないよ

認めるわけにはいかない

でもここにこうしていて

それはわたしなんだって

「仕方がない、今日からこれを本当のわたしにするか………」

諦めた

朝、パジャマを脱いで

この世界は相変わらずあの頃と変わらない

壊れてしまえばいいのに

最寄りの駅へ向かう途中そんなことを思った

だってもうわかっちゃったから

わたしはもうあの頃のわたしじゃないし

ここでおしまいにしたい

視界を覆い尽くす景色に含まれる嘘がわかるんだ

どれだけわたしに嘘つきなのかとか

自動販売機で紅茶を買った

ごとん

落下して来たそいつの運命

それとわたしの運命を交換したい

中身を失くして空き缶になって屑籠に捨てられてしまいたい

あの頃のわたしなら疑問にすら思わなかったことが首をもたげる


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る