片想い


意識を集中させると

わたしは鋭利な刃物を持って

誰もいない部屋でじっと佇んでいることがわかった

早く何かを裂いたりしなくては

うーんそれにはかなり同意

恥ずかしいけど勇気を出してあの人の内側をえぐったりしてみたい

誰も見たことのないあの人の臓器がわたしにだけ示されるのなら

それって多分、愛とかそういうことだと思う

早速、あの人に話しかけた

「お腹、減った?」

「別に」

感触は悪くないと思う

しかしあの人には既に恋人がいた

名前は床

床、殺す!

真夜中にそう枕を噛み叫んだ

でもその床はわたしだった

うっそー

やったあ

ほっぺたをつねったらちぎれて血飛沫をあげた

うぎゃああああっ

やっぱり夢だった

なんだがっかり

わたしは床ではなくのぶ子だった

のぶ子は顔のぶつぶつに悩むふつうの女の子

校則によりのぶ子は夏、身体を隅々まで殺菌してからプールに入ることを許可された

そんなのぶ子が目が覚ました

生まれて初めて見るかのよう自分の部屋を見渡した

壁にはステッカーが貼られていた

『痴女太郎』

ロックか何かのバンド名だろうか?

階段をドタドタと駆け下り朝食の皿の上のソーセージを突き刺し頬張った

「うっほほーい」

そうして特に何も無い日中を送りもう夕方だ

テレビを点けた

ちびまる子ちゃんに出演していたメガネがおかしなことを言い出した

「ズバリ、惨殺でしょう」

我が家のハイパープラズマワイドテレビは金持ちそうなくせ毛の少年が手足をあらぬ方向へ曲げ血塗れで倒れているシーンへと移り変わった

メガネはこれでもかというぐらい笑った

わたしは前後の流れをきちんと把握したかった

どうしてあの金持ちの少年が惨殺されなくてはならなかったのか?

犯人は一体、誰?

ドキドキしながら次の展開を待った

「ズバリ笑点のメンバーでしょう」

んなバカな

わたしはびっくりして風呂に入って寝た

次の日、部屋の窓から外を見上げると白い雲が青い空にムシャムシャと食べられている最中だった

仕方ないよね

だってこの世は弱肉強食だから

電話が掛かってきた

(あの人からだろうか?)

でもあの人は太陽の光のいい匂い

今のわたしはいい匂いのする方へ駆ける犬以下の単純な思考回路


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