バレンタイン


わたしが台所で真剣になってチョコを手作りしていると

弟が横から口を挟んできた

「売ってるチョコをわざわざ溶かして固めてそれで手作りだなんて何か間違ってるよな」

わたしは(こいつぶん殴ってやろうかな………)と思いぶん殴った

痛いところを突かれるとむかむかするものだ

弟は嘘泣きを始めた

びええ

お母さんがすかさずやって来た

そのあとの話しは省略

何故ならよくある話しだから

よくある話しをわざわざ記述するなんてどうかしている

わたしは翌日、手作りチョコをテニス部の先輩に渡した

先輩はグラウンドの真ん中で縦笛を吹いていた

「おれ、明日、笛のテストなんだ」

良かった

わたしはてっきり先輩があれになったのかと思って一瞬、焦った

「安心するのはまだ早いぞ」

後ろから声がした

先輩といつもダブルスを組んでいる松尾だった

松尾の指差す方角の先輩を見つめた

先輩のズボンからペニスが縦横無尽に飛び出している

「あいつは、もう駄目なんだよ………夏の大会で全てを使い果たしてしまったんだ」

哀れみを込めた口調で言った

仮にそうだとしてもそこまでなるだろうか?

先輩はわたしでも松尾にでもない空想上の誰かに語り始めた

「びたみん、みねらる、もおやめてええ」

一言一言、区切ってはっきりと

やって来た顧問の先生にビンタされた

「正気に戻れえ!」

先輩はこくんと頷いた

だからコーチも頷いた

「おれが誰だかわかるよな?」

先輩は真っすぐにコーチの瞳を見据え言った

「パイナップル星人」

そしてわたしたちを無視して惑星間パトロールへと出掛けて行ってしまった

先輩はここにいても

心はここには無かった

わたしの愛の力でどうにかしたかったけれど

売っているチョコを砕いて溶かして固めたものではどうにもなりそうになかった


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