いつかの屋上


わたしたちの学校の屋上は

いつも封鎖されていた

高さがあって

そこから落下すると危険だからという正当な理由によって

しかしそれに伴う閉塞感を

大人たちは一体どう考えているのかね?

「落ちるならここではない別の場所からやってくれ」

結局、大人ってのはそうなんだね

わたしたちが落ちるか落ちないかはこの際、問題では無い

屋上へと続く鉄の扉

そこには南京錠がぶら下がっていて

ちゃっちかった

だから問題はわたしたち自身なのかもしれない

その気になればいいだけなのかもしれない

やってみる?

「みようよ」

そしてわたしたちは焼きそばパンを口に突っ込み昼休みに抜け出すのだ

「おい起きろって、屋上の南京錠をこじ開けるんだろ?」

何言ってるんだこいつ

わたしは顔を顰める

そのあと思い出す

(ああそうだったね)

わたしはまるで自分が小説の登場人物になったような気がしていた

「ねえ、サリンジャーって知ってる?」

上半身を起き上がらせ机でうりゃーっと背伸びする

「名前だけね」

友人は言った

「初めてサリンを作った人なんだよ」

嘘情報を仕込む

「へー………でもそれ嘘じゃん」

すぐバレた

そしてその後、何のフォローもしないままわたしは立ち上がって廊下を歩いた

友達もてくてくついてくる

わたしたちは階段を上がる

やがて辺りに誰もいなくなった

扉は簡単に開いた

なぜなら鍵があるからね

四時間目の体育が始まる前にわたしたちは倉庫の鍵をもらいに職員室へと行った

体育教師のヒゲちゃんはクラスの日誌に何かを書き込んでいた

「あー、そこに掛かってるから持ってけ」

観音開きの小扉を開けると我が校のキーがずらり

わたしと友人は顔を見合わせた

この学校の安全に対する認識の高さに乾杯!

そつしてカルピスなんとかをぐびぐびと飲み干したのがさっきの昼休みってわけ

「ぎぎい………」

錆びついた音を立て屋上への扉は開いた

その先に広がる景色

「おおう」

わたしは強風にスカートをはためかせながらその中を歩いた

(髪型が多分、凄いことになっているな)

そう思った

だがどうでも良い

端まで来て手すりに腕をつき、見慣れた校庭を初めての角度から見下ろした

友人のケータイにはよくわからないピンクのキャラクターがぶら下がっていて

それがあっちこっちに激しく揺れていた

たった一度のことだったけれど

わたしはこの時のことをよく覚えている

そしてあの日、屋上から見下ろした校庭で

小さくバレーボールとかをやっていた人達は

今は何処で何をしているのかな?

とか

よく思うよ


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