侵略


春の日に

風は穏やかで

陽射しもうっとおしくないくらいに注がれ

わたしは

戦っていた

敗北の決定したその続きを

理解不能な方程式で導き出された答えが

一斉に押し寄せて来た

もはや笑うしかない

ああ

ここはわたしの居場所ではない

もうやめよう

何度そう思ったかわからない

それでもこうして

ここにいて

戦っている

わたしの半分は既に死んでいる

瞳だけは真っ直ぐに前を見据え

理由なんて

きっと何処かへ置き去りにしてしまったのだろう

少しでも多く敵を壊すよ

おそらく最後には

わたしは諦めるのだと思う

(ああ………もう終わりか)

薄ぼんやりした意識でそう思って

そして無へ還るのだ

だが今はまだその時ではない

それだけで重い身体を引き摺って

生暖かい液体が流れ出して

(これは血か?)

見上げた空を覆い尽くす正体不明の連中

集中攻撃は一時中断される

何もかもがあいつらの都合で進む

風はぴたりと止んで

まるで草も葉も静止画像のよう

わたしは思い出す

いつかあなたと行ったハイキングを

編み籠に手製のサンドイッチを詰め

足元に咲く小さな花を愛でながら

歩いたよね

「ふふっ」

口元だけで死にかけの笑み

この戦いの始まりは覚えていないけれど

終わりはもうすぐそこの予感


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