第20話 温かな眠り

 「ホーホー」

 黒猫亭のケヤキの枝で珍種のフクロウが鳴く。

 両目をまんまるにして、褐色のセーラー服なんぞ着た梟である。

 「ホーホー」

 猫叉たちに危害を加えかけたペナルティと夜間の警備を兼ねて、野々宮濃紅″は清丸の催眠術で自身を梟だと信じ込まされているのだ。

 「ゴロスケホーホー、ボロキテホーコー」


 その晩、清丸は土間で体を丸めていた。

 何となく寝つけなかったのだ。繁が敷いてくれた布団は、とても柔らかく太陽の匂いがした。いつ客を泊めてもいいように日干しして、綿打ちしていたのであろう。

 (武丸や智丸に悪いな)

 心地よさがかえって失った友のことを思い出させてしまった。


 何か月でもさすらうつもりが、案外たやすく落ち着き先が決まってしまうと、ほんの四日ばかり前、実の肉親以上に近しい存在を失ったことが冗談みたいに思えてくる。

 (皆俺を置いて死んでいく)

 武丸も智丸も、彼を犬神に育てた犬神使いの爺様も。


 「ここにおられたのですか」

 半纏を羽織った繁が来た。寝所に彼の姿が見えないので探していたようだ。

 「どうかお座敷でお休みください」

 「今夜はここで良い」

 「ここの布団では寝心地が悪うございますか」

 「あたたかい日差しに包まれる花畑のごときよ」

 「……ありがとうございます」


 主の感傷を察して、繁は下がると決めた。

 「では、僕も寝ますが、御用があればいつでもお呼びください」

 「待て猫村」

 「繁です。何でございましょう」

 「おまえもここで寝ろ」

 「僕もでございますか?」

 「俺の側でな。毛皮を密着させて」


 「僕は男の子でございますよ?」

 昼間恥をかいたせいで慎重になっている。

 「それがどうした。寝所の供は女と決まっているわけではあるまい。俺はその気になれば男にも女にも化けることができる。おまえもそうであろう」

 「……はい」

 繁は素直に巨犬姿の清丸の隣に寝そべった。


 「もっとくっつけ」

 「……はい」

 脇腹の毛皮に猫の体が埋まる。母犬にでもなった気分だ。

 小さな心音の高鳴りがいじらしかった。あらゆる苦悩や寂しさを吸い取ってくれる。

 清丸は温かなものと体温を分け合う幸せを堪能した。

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