廃校をデパートにしてみた

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

廃校で、コロッケを揚げる

「いらっしゃいませー!」


 校門で、川田 比奈子生徒会長のハキハキした声が通る。

 

 入っていくのは生徒ではない。買い物しに来た奥様方だ。


「本日は夏休みセールとなっております。衣服、文房具等、三〇%安くしておりまーす」


 いつも明るい比奈子会長は、実に客引きが似合っていた。

 奥様たちの受けもいい。


「はい、お車でのご入場はこちらでーす」


 男子生徒が警備員となって、車を誘導する。

 車での入校は、生徒通用門を利用してもらう。

 駐車場は、もう使われなくなったグラウンドだ。

 アスファルトを敷いているので、砂埃も舞わない。


 プールは市民に解放し、家族連れの遊び場となっていた。

 ウォータースライダーなどの派手な施設は設置していないが、楽しそうでなによりだ。


 ここは、廃校を改造した商業施設である。

 街おこしの一環として、月に一度、授業で商売を行う。


 職員室をスタッフルームとして活用している。

 保健室周辺は、そのまま医療系の施設に入ってもらった。

 

 

 ボクたち従業員は、隣町の高校に通う生徒たちだ。

 


「比奈子会長、やっぱりすごいなぁ」

 入り口近くの教室でコロッケを揚げながら、ボクはクラスメイトの働きぶりに感心していた。



◇ * ◇ * ◇ * ◇



  

「歴史的建造物を取り壊すなんて、ありえない」


 

 比奈子会長の一声で、この事業は始まった。

 単なる文化価値を残そうという意見である。

 廃墟マニアな会長は、昭和遺産めぐりが好き。


 この学園に来たのも、廃校が近くにあるからだった。

 

 いち高校生の主張、誰も耳を貸さない。


 だが、風向きは変わる。


 取り壊した方が、予算がかさむ。


 とはいえ、具体的な解決策は誰からも出ない。


 

 試しに、「廃校でコロッケを売らせてもらえないか」と提案してみた。


 学校周辺は、一軒家や団地が多く並んでいる。


 また、ベッドタウンという立地のせいで大型百貨店もショッピングモールも建てづらい。

 コンビニさえ、やたら遠い。


 おかげで学生や奥様方は不自由していた。

 何をするにも車が必要なのだ。


 高齢化のせいで商店街もろくに機能せず、閑古鳥が鳴いている。

 ボクの実家である精肉店も、例外ではない。

 全店閉鎖は時間の問題だった。


 

 ここで起爆剤が欲しい。

 ボクは、逆転のチャンスを虎視眈々と狙っていたのだ。

 

「なるほど。リノベね?」

「リノベって?」

「リノベーション。建物を改装だけして、店舗や施設として利用するの。日本は元々ある建物が多すぎる。だから、リノベで再建するってのが主流になりつつあるんだよ」

 

 会長は、早速商店街側に掛け合った。


「大型ショッピングモールに入られるくらいなら、廃校に店を構えてみないか」と。

 イチから建てたら金がいる。

 元々ある施設を利用するなら、耐震や防災の基準さえ満たせばいい。


 会長はそうやって、商店街側や自治体を説得した。


 行動力の高い会長の下で、ボクたちは危なげなく話を進めていく。


 ボクはただ、コロッケを揚げる程度だけど。


 騒音を気にした住民とのトラブルも解決し、自治体や関係者との信頼を勝ち取っていった。


 頭の固い教師たちは、「教育の一環」という謳い文句で黙らせる。


 コロッケを揚げることが、どう教育に関係するのか謎だけど。

 


◇ * ◇ * ◇ * ◇


 

「お疲れさま。三郎くん」


 ボクの店に、比奈子会長が休憩しに来た。

 

「おひとつどうぞ、会長」

 揚げたてのコロッケを、会長に差し出す。

 

「ありがと。三郎くん」


「おかげさまで売れ行きは上々だよ。会長のおかげだね」

  

「何を言っているの? この学園を残せたのも、あなたがいてくれたおかげよ」


 溌剌とした笑顔で、ボクが揚げたコロッケを食べる。

 

「ボクはコロッケをみんなに食べてもらえるだけで、感謝しかないよ」

「欲がないのね。もっと欲しいものはないの? 私はワガママを聞いてもらえた。今度は誰かの役に立ちたいの」



 言えないよ。

 

「一緒にコロッケを揚げて欲しい」なんて。

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