第4話 御都合主義は勇者の特権
※微グロ注意
本当なら"この"身につけた鎧も売り払えたらよかったんだが、残念ながら俺の体を覆っている鎧は取り外し不可だ。
ある意味呪いの装備だ。
神が聖剣を作るのに、丹精込めて、聖剣の守り人という存在を作るのが途中で面倒になって適当に作った所為で、鎧が外皮のようわからん生き物が完成した。
俺にとって俺を覆う鎧とは、亀の甲羅みたいなものだ。
外したら死ぬ。
鎧をとったらその下は皮膚もなく直接筋肉とか臓器が丸見えになるだろう。
そもそも俺に臓器があるかわからんがなっ!ははは!
「キャァァァーー!!!!!!」
え?悲鳴だと……。これは、11代目の勇者が言っていた"お約束"というやつでは?
ツキが回って来たな……。
馬車に乗った姫さまとか貴族のお嬢さんが山賊なり魔物なりに襲われていて、悲鳴の元に駆けつけて助けると金ももらえる、もてなしてもらえる、美人なお嬢さんもお持ち帰りできるスペシャルイベントっ!
はあああ!!!!!これは行くっきゃない!
ああ、待ってろ!俺の聖剣の守り人伝説!!!!!
こうしちゃあいられねえ、と居ても立っても居られず、走り出した。
風のようになって、跳ねるように軽快に走り抜ける。
砂煙を巻き上げ、立ち塞がるバジリスクを拳で粉砕し、人間の首を木の棒に刺して遊んでいたゴブリンを蹴っ飛ばして、たどり着いた俺が見たのは、そんな希望を打ち砕くものだった。
「イヤ、タスケテ!」
「ヒメサマヲニゲクダサイ!!」
「グゲゲ、イイオンナダ!コイツハコロサズ、オレガアトデモラウゾ」
「キッキッキ、マタヒトリコロシタ」
「オンナ、ヤル、マワス」
「ヒィ、ダレカァ」
何この地獄絵図。
はぁ……。
俺はため息をつくしかなかった。
悲鳴が聞こえたからきてみりゃあ、人の言葉を話すオークとゴブリンの縄張り争いかい。
「ヒメサマだからって悲鳴(ヒメイ)をあげてんじゃねえよ!必死になって駆けつけた俺が馬鹿みてえじゃねえか!てめえ何様(ナニサマ)だコラ!」
「ヒィィ!!」
「うっせえぞ!こん、雌豚がっ!!!!」
くっっそ……。
本当にクソッタレだ。
なんだいなんだい!この豚は。
人間みたいにけったいなドレスを着て、指や首に装飾品をつけた声だけは一丁前な雌豚(オーク)は!!
「グギャ、キサマナニモノダ!」
「ジャマヲスルキカ!?」
「緑色の害獣如きが人の言葉を話してんじゃねぇよ」
「キサーーー」
馬車に乗ったオークの一団を取り囲んでいたゴブリンの集団が何か言い返す前に、俺は人智を超えるスピードで接近し、そのままかかと落としで、にじり潰した。
「昔のゴブリンは喋らなかったが……ふむ」
「ワレワレハゴブーー」
「まあ、どうでもいいか」
聖剣の守り人が本来使う武器である精霊剣。それは精霊で出来た光の劔。
折れることもなく、いかなるものも斬り伏せ、たとえ手元になくとも、呼び寄せることが出来る唯一無二の存在。
「来たれ……精霊剣(ティファニール)ッ!!!!!」
天に掲げた左手に集まる光の洪水。
光が中央に集まり、やがて剣の形へと変わって行く。
「魔物如きが人間語じゃべってんじゃねえ!!!!!」
薙ぎ払うように腕を振るうと、明らかに短かった光の剣が伸び、その軌道上にいたゴブリンもオークも巻き込んで切り飛ばした。
あの醜い雌豚(オーク)はうっかり殺してしまわないように、風魔法で吹っ飛ばしておいた。
雌豚姫の乗った馬車ごと吹っ飛ばしたので、怪我をしているかもしれないが、まぁ死んでいたら死んでいたで、いい。
取るに足らない存在だ。
光の刃は、彼らの来ていた鎧や、魔法を切り裂いた。
声をあげるまでもなくばらばらになって、内臓をぶちまけた豚姫を除くオークと、ゴブリンたち。
精霊剣は消える様子はないので、聖剣を入れていた鞘に入れて腰に吊るす。
勇者たちが言うには、冒険者ギルドというところに持っていけば、ゴブリンやオークは金になるらしい。
"討伐証明部位"なるものがあり、討伐した魔物の一部を剥ぎ取って持っていくと、言っていた。
オークは牙、ゴブリンは耳らしい。
牙はなんとなく使い道はありそうだが、ゴブリンの耳は一体何に使うのだろうか。
もしや、人間世界ではゴブリンの耳に紐を通して首から下げるのが流行っていたりするのだろうか?
あいにく解体用ナイフなんてものを持っていなかったので、持ち前の腕力で、死体……いや死骸や、死にかけの体から毟り取って行く。
そういやぁ、4代目の勇者が
『ゴブリンは取るに足らない存在だが、奴ら死んだふりをして不意打ちをしてくるんだ……腹から腸をぶちまけたり肉が剥き出しの状態で不意打ちを普通に食らわしてくるからほんまきもいんだよなぁ』
と、言っていたのを思い出した俺は、鞘から精霊剣を引き抜いて、ゴブリンの死骸に剣を突き立てながら耳を引きちぎって、剥ぎ取ったばかりのオークの生皮で作った袋に詰めて行った。
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