第2話ラッキー&アンラッキー
「ちょっと、春原さん」
「んっ、何?委員長」
金曜日の最後の授業が終わり、教室で帰る準備をしていると委員長に呼び止められる。
「名前で呼びなさいよ、春原さん」
「ごめんごめん、は…やしさん」
私は顔色を見ながら名前を呼ぶ。というのも、彼女は小林さんと仲良しで、いつも一緒にいるけど、髪型やメガネが似ていて、どっちか悩むので委員長と私は呼んでいる。今回は当たったようだ。
「委員長、今日は勘弁して~」
「だめに、決まってるでしょ‼」
彼女の顔を見て思い出した。今日は掃除当番。
けれど、今週をなんとか乗り切った私のHPはすでに0だった。
「もう、体調が」
「じゃあ、当然、カラオケに誘われてたみたいだけど、行かないんだよね?春原さん」
「…耳いいね、委員長」
昼間に友達とカラオケに行く約束を聞かれていたようだ。
また、林さんは委員長と言ったことに少しむっとして、
「じゃあ、私帰るから。ちゃんとやるのよ」
「ちょっと、せめて、手伝って~」
行ってしまった…。
仕方ない…やるか…。
とぼとぼと、掃除ロッカーへ歩き出す。
「忘れ物~、俺はすれたもの~」
「あっ」
「ん?」
私がロッカーの前でうなだれているところに、拓未が来た。
「ねぇ、拓未。あんた暇?」
「ん?」
「暇?」
「それは…デー…暇だ」
拓未は何かを言おうとしたが、言うのを止めて答える。
「じゃあ、掃除お願い」
私は、満面の笑顔で箒を渡す。
「ん?」
「これ箒」
「おれ放棄」
はいっと、渡した箒をぽいっとされてしまった。
「え~なんで掃除しないの、不潔」
「いやいや、手伝えってこと?」
「いや、全部お願いしたいところであります」
「いや~それは、ないでしょ」
「いや、ありよりのありでしょ」
「いや~、ないない」
「そんな~遅刻友達の仲じゃない」
「いつもぎりぎり間に合っているだろ、ってか、毎日思うけど、余裕を持ってゆっくり登校しようよ」
「いや~、毎日すべての信号が青信号だと間に合うぎりぎりを攻めたくなっちゃうのよね」
「…それは運の無駄遣いじゃない?」
「じゃあ、わかった。ジャンケンで決めよ」
「いやいや、やるのは杏。帰るのは安藤」
「ねっ、ジャンケンだけ。とりあえず、ジャンケンだけ」
「いや、ジャンケンで杏に勝ったことねーし」
んー、だめそうだ。タダでは…。
「わかった、わかったよ、拓未」
「じゃあ、俺はこれで。頑張れよ」
「1つ!」
私の声に拓未が振り返る。
「拓未が勝ったら、1つなんでも言うこと聞いてあげる」
「なんでも…?」
「うん、なんでも」
かかった。
拓未は一瞬固まる。
「…いや、これは負けフラグだろ。俺はやらんぞ」
「ねっ、なんでもするからお願い」
「ぐぬぬぬっ」
しばらく悩む拓未。
「いや、手伝ってやるから終わらせよ」
「勝てる勝負を捨てる私ではない。逃げるの、拓未」
拓未はくすりと笑う。
「オーケー、オーケーじゃあ、ジャンケンしようか」
「やった、やっと乗ってきたわね」
「喜ぶのは早いぞ、俺は二人の女神に」
「じゃーんけーん」
「おい人の話は」
「ぽん」
「約束は約束だからよろしくね」
「ぐぬぬ、卑怯だぞ~」
「卑怯じゃありません、じゃんけん」
今度こそ勝つぞと拓未が音頭に合わせる。
「ぽん。はい、私の勝ち」
「なぜ、勝てない」
「いままでに何回負けてるのよ。私に」
「50回を超えてから数えるのを止めた」
自分の右手を不思議そうに見つめながら答える拓未。
「あんた、運なさすぎ」
「くそ~、まじか~」
「それに比べ、私は天に愛されてるわ」
「いや、天に愛されてないぞ」
「えっ?」
急に真顔で話す拓未にドキッとする。
「杏は、この俺に愛されてるんだ…って、いないし」
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