アンラッキー・アンハッピー

西東友一

第1話アンラッキー&アンハッピー

「あっ、当たった」

 私、春原杏はラッキーだ。


「あっ、痛っ!!」

 安藤拓未、あいつはいつもアンラッキーだ。


 新学期が始まり、少しは暖かくなったが長野は冬の名残で未だに寒く乾燥している。

 私は高校生活2回目の春を感じながら、通学路を歩いたが喉が渇いたので、暖かいものを飲もうと自販機でホットレモンティーを選んだ。

 ボタンを押すと、小銭入れの付近にあった電光掲示のルーレットが回りだし、7がピタッ、ピタッと4つ揃った。

 私の当然のように呟いた声を覆うような拓未の声が聞こえ。私は水を差された気分になり、ため息をつきながら横を見ると、同級生の拓未が自転車の少女にぶつけられたようだ。


「大丈夫ですか⁉すいません‼」

 少し大きめ制服を着ている彼女は1年生かな?

 全く、初登校で拓未にぶつかるなんて、ツイてない子。顔が真っ青だ。


「はははっ。大丈夫よ。貴方のせいじゃないわ。こいつ、もの凄いどんくさいやつだからよくあるの。だから気にしないで」

 彼女は第三者である私の発言に困惑しているようだったが、そんなことを気にもせず、私は自販機のジュースを取り、もう1本選ぶ。

「ど・れ・に・し・よっかな、っと」


「でっでも…」

「だいじょーぶ!!逆にごめんね!!俺の中にある因果律に巻き込んじゃって」

 拓未は立ち上がり、元気いっぱいに声を出す。

「はっはい…」

 声がうるさい。


 そして、場を和ませようとした言葉のチョイスなのだろうが、彼女にはその意図は伝わらなかったようだ。困惑している。


「ねっ?気にしない方がいいでしょ?」

 彼女の高校生活がこんなおかしな始まり方をするのもかわいそう。彼女が気持ちよいリスタートを進めるように、手にした紅茶を彼女に向かって下手投げで投げた。


「えっ、いいです、いいです」

 彼女は宝石を貰ってしまった町娘のように恐れ多い顔をして、両手の上に缶を乗せている。

「じゃあ、あ~げない」

 私は近づいていき、紅茶を奪い返すと、彼女は残念そうな顔をする。

「ほら、欲しいんじゃん。はい」

「すいませ…」

 彼女の手が空振りするように私は手を引く。


「そ・こ・は~ありがとうでしょ」

「あっありがとうございます!」

 そう言って、お茶を笑顔でもらい、自転車のところまで行ってまた深々と頭を下げる。手を振ってあげると、ペコペコしながら、自転車に乗りながら学校へ向かっていく。


「さて…」

「いてっ」

 とりあえず、拓未を蹴っておこうか。

「いや、蹴ってるでしょ」

「えっ?」

「今、絶対、心の中で蹴った後で蹴っておこうかとか思ったでしょ?頭が考える前に人を蹴るなんて悪行を体が犯してたよ?」

「ハハハっ、まさかそんなことあるわけ、ナイヨー」

「なに、その棒読み。図星でしょ!?」


 ぽとっ。


「ん?」

 拓未が私に触れてこようとしたので、軽く後ろにジャンプしてよけると、よろけて前に出てきた拓未の腕に鳥がフンを落とした。


「なんでやねん‼」

「はははっ。まじで、汚っ。あんたほんとに、ツイてないわねっ」

 面白すぎて、息が上手く吸えない。

「なんだと~‼んっ、でもおれはツイている‼『うん』が‼これは幸運の象徴‼」

「なわけないっしょっ」

 拓未は本当にツイてない。今はツイてるかもしれないけど。


「いや、俺は付いている‼俺には二人の女神が付いている‼」

 必死に笑われるのを抑えたいのか、真顔で言っているが、笑いが止まらない。

「一人は空から『うん』を持ってきた。あの鳥は彼女の使いだろう。そして…、ここにも地上に降りた女神が。こんなにも俺に笑顔を振りまいてくれる女神…が」


「せい‼」

 拓未はチョップをしてくる。

「いい加減に笑うのは止めなさい。てかやめてくださいです、はい…」

 私が睨むと、拓未は途中から弱々しくなる。少し涙目だ。


「遅刻するから、早く学校行くよ、バーカ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る