第22話 オルゴールの行方
迎えに来てくれたレイヴィンと部屋に戻ってからしばらく経つが、彼はあれから寝る時間も取らずに難しそうな書籍を読んでなにかを調べたり手紙を読み考え事をしている。
「レイヴィン様、少しお休みになったほうが……」
「一日ぐらい寝なくても支障はない。それにもう今日が決行日だからな」
歌姫を攫う予定は今夜だ。確かにもう時間がない。
「……計画を見直すのはどうですか? オルゴールが見つからなければ、当初の予定通りにはいかないですし」
しかしレイヴィンはやはり今日にすると決めているようだった。
「最悪オルゴールは後日でいいけど、セラフィーナの件は今夜決着を付ける」
「でも、準備も不十分なのにもし失敗したら」
焦って無理に決行してレイヴィンになにかあったらと思うと気が気じゃない。
「俺が攫い損ねるわけないだろ。オルゴールが見つかってセラフィーナの意志で国を出るのがベストだったが、いざとなればもう一つ方法を考えてある。今の状況からするとそっちのほうが確実か……強硬手段だけどな」
顎に手を当てレイヴィンは頭の中で計画を練り直している様子だ。どうやら彼の中では歌姫を攫う手順が二通りあったらしい。
「きょ、強硬手段……あのどんな方法を?」
「心配するな。すべて上手くいく」
(……そうやって、またなにも教えてくれない)
アンジュはレイヴィンに気づかれないように頬を膨らませた。
せっかく使い魔として戻ってきたのだから役に立ちたいのに、レイヴィンは相変わらず秘密が多いから。
「これさえ解ければオルゴールの場所が分かりそうなんだけどな」
レイヴィンが先程も目を通していた手紙を取り出したので、アンジュも一緒に覗き込む。少し古びた紙には、丁寧に綴られた文字が並んでいた。
――セラフィーナへ 誕生日おめでとう。もう子ども扱いできる年齢じゃないね。だから、大人になったキミへボクからのプレゼントがあるんだ――
「キミに伝えたかった言葉を、秘密の場所にいるアノ女神に預けておいたよ。上手く見つけることが出来たなら、オルゴールと共にキミへ。アーロン」
どうやら王子がセラフィーナへ送った手紙のようだ。
「セラフィーナの部屋で見つけたんだ」
「でも彼女のお部屋にオルゴールはなかった。ということはオルゴールはまだこの手紙に書かれてあるヒントの場所に?」
「そうみたいだな……内容的にそれは二人の思い出の場所に隠されている。今のところ手掛かりはそれだけだ」
厄介だとレイヴィンは眉を顰めている。
単純に宝の場所を暗号化したものならば解くことも可能だが、二人の思い出の場所は二人にしか分からない。
「う~ん……そうだ! 王子の部屋に忍び込んで手掛かりを探ってみましょうか」
それならば今度こそ自分の出番だとアンジュは張り切る。姿が見えない自分が部屋に忍び込み様子を探るのが適任だと思った。けれど。
「王子の部屋ならとっくに探った。この手紙を見つけてすぐな」
「それで?」
「……もぬけのから」
「え? たしか王子はご病気で寝込んでいるんじゃ。もしかして、悪化してどこかへ隔離されているとか?」
「いや、それはおそらく都合の悪い秘密を隠すための嘘だな」
「嘘?」
「王子は行方不明、もしくは……」
アンジュは気になり前のめりになったが、レイヴィンはそこで言葉を切ってしまった。
「そこで止められるとものすごく気になっちゃうんですけど」
「この先は、まだ俺の憶測だ。なにかあるんだろうが正直分からない。セラフィーナも城の内情に関する事は俺に話そうとしなかったからな」
「そうですか……」
ここでオルゴールの手掛かりは手詰まりになるのか。そう思ったけれど、一つ簡単に情報をもらえる手があることに気付く。
「あの、セラフィーナ様に聞いてみるというのは?」
「……そうだな。そろそろ頃合いか」
「頃合いって? というか今日攫うつもりだってその後ちゃんとっ」
伝えているのか確認したかったのだが。
「レイヴィン、おはようございます」
「っ!?」
問う前にタイミングよくセラフィーナがいつも通りノックなしで入ってきた。
アンジュは慌てたがすかさず一人で読書をしていたフリをしたレイヴィンは、挨拶を返しながら顔を上げ……彼女の姿に少しだけ目を見開いた。
「その格好は」
「ふふ、今夜の豊漁祭でお披露目する衣装よ。似合うかしら」
華美ではなく上品な意匠のドレスは水の精霊をイメージして作らせたのか淡い水色をしている。
くるりとレイヴィンの前で一回転して見せた姿はとても可憐だった。
「ああ、キレイだ」
褒められるとセラフィーナは満足そうに微笑みながら、彼の座る長椅子に腰を下ろし寄り添う。
「どうしたんだ? ドレスにシワができるぞ」
「久々の舞台だから、緊張しているの」
不安だわと吐息を漏らしながらセラフィーナはレイヴィンの首に腕を回し抱きついた。
心細そうな声を出しながらも、彼女は後ろで居心地悪そうにしているアンジュを見て、ほくそ笑む。
見せ付けられているのだと気付くと、もやもやしてくる。
(う、うらめしい~……そんな目で見なくても、お邪魔虫は退散いたしますー)
居心地の悪さに耐えられなくなったアンジュは、そんな思いから逃れるようにドアの隙間から部屋を抜け出したのだった。
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