第19話 使い魔が出て行った ーレイヴィンsideー
レイヴィンはセラフィーナの部屋へ潜入して戻って来ると、懐から取り出した手紙を眺め先程から難しい顔をしていた。
その様子を少し離れたところからチラチラと伺ってくる使い魔の視線に眉を顰める。
いつもなら纏わりついてきて、なにを読んでいるのかどうしたのかと騒ぎ始めるのだが、先程部屋に戻ってからというもの、態度が変だ。
しかしレイヴィンが顔を上げて視線が合うと慌てたように目を逸らしなにも言ってこない。そしてレイヴィンがまた手紙を読みだすとチラチラとした視線が……
(チッ……なんなんだ)
「はぁ……どうしたらいいの」
レイヴィンに視線を送るのをやめ俯くと、今度はブツブツ独り言を始める。なにか悩みがあるのは明らかだったので、手紙の件を後回しにすることに決めレイヴィンは長椅子から立ち上がるとアンジュの前までわざと気配を消して歩いた。
「なにがどうしたらいいって?」
「きゃっ」
一人百面相をしていたアンジュが声に驚き飛び上がる。
レイヴィンは彼女のこの驚く反応を見るのが実は好きだ。もちろん本人には言わないけれど。
「な、なんでも、ないです」
アンジュはもごもごと視線を床に落としながら答える。
(はぁ……なんでもないわけないだろ)
嘘が下手なくせに隠し事をするとは、なにかあるなと察した。
「なんかやましいことでも?」
「な、なんっで!?」
平静を装うのに失敗して思い切り声がひっくり返る。分かりやすすぎる反応に吹き出しそうになったのを堪え、レイヴィンは尋問を続けた。
「何度も言うけど俺に隠し事するな」
「なんでですか?」
まるで自分は沢山隠し事をしているくせにと責めるような、アンジュらしくない棘のある言い方だった。
この反応にはレイヴィンも少し驚いたが、それ以上にアンジュが傷ついた顔をしていたので少し問いただし方を変える事にした。
「……どうした?」
優しい声音で問い掛けると、僅かにアンジュの瞳に涙が浮かぶ。
(本当にどうしたんだ? いったいなにが……)
「レイヴィン様、私……」
アンジュは何度か言葉を発しようとしては躊躇してを繰り返している。
「なに考えてる?」
レイヴィンはいつまでも黙っているアンジュの気持ちを汲み取ろうとするが、手がかりが少なすぎて分からない。
「私……」
アンジュは泣きそうになるのを堪えているようだった。そして声が震えないように小さく一呼吸置いてから再び口を開く。
「レイヴィン様の使い魔をやめたいです」
「は?」
しんっと部屋が静まり返る。
レイヴィンはなにを言われたのかと思考が一瞬止まりぽかんとしていた。
(これは想定外だ)
「レイヴィン様の使い魔をやめさせてください」
アンジュは聞こえなかったのかとでも思ったのか、もう一度今度はレイヴィンの目を真っ直ぐに見つめてそう告げた。
「……理由は?」
「え」
「やめる理由を簡潔に述べろ」
「そ、それは……」
再びアンジュが口ごもる。
(こういうことが起きないためにわざわざ主従関係を作ったのに、詰めが甘かったか?)
今彼女に勝手な動きをされるわけにはいかない。だが黙って言う事を聞けと言うだけじゃ、これは従わせられないようだなとレイヴィンは察した。
「理由も言えない気紛れなら受け入れるつもりは」
「やめる理由は……レイヴィン様の事が嫌いになったからです!」
(へー……そう来るか)
またもや想定外の返答に内心イラッとする。
「おい、嘘吐くな」
「な、なんで嘘って決めるんですか!」
「俺がお前に嫌われる理由なんてない」
というか、そんななんの嫌悪感も浮かんでない泳いだ目で言われても信憑性がない。
しかし彼女はこの理由を押し通すつもりのようだった。
「そ、そういう……自信過剰な所が嫌いです!」
「意地悪で俺様な所も嫌いです!」
「すぐ睨んできて怖いです!」
「あと女性の趣味が悪いです!!」
アンジュが黙ると再び部屋に静寂が戻る。
レイヴィンはもちろんいい気分ではなかったが、その悪態が全部嘘だということぐらい伝わってきた。
(なんでそんな泣きそう顔してんだよ)
下手くそな嘘吐くぐらいなら、その理由を話せよと言ってやりたかったが今の彼女は聞く耳を持っていないのだろう。
「もう、私は大丈夫ですから……レイヴィン様には幸せになって欲しいです」
「アンジュ?」
(まさか、こいつ記憶が……)
「嫌いな人と一緒にはいたくないので、もうお別れです。さようなら」
「おいっ!」
泣かないように堪えるように口元に笑みを浮かべそう告げるとアンジュは開いていた窓から飛び出していった。
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