第13話 女心を説く
灯台の下見をした翌日。
日の光を遮断した薄暗い一室で、アンジュとレイヴィンは向き合い作戦会議を開いていた。
「セラフィーナを攫うのは、二日後に迫った豊漁祭最終日の夜だ」
「できるなら今日中にオルゴールを見つけたいところですね」
時間が足りなさすぎるのではないか。色々気掛かりも残っているし、本当ならもっと綿密に時間をかけて準備をする必要があるのではないかとアンジュは思う。
「そもそも、このお城にあるというのは確実な情報なのですか?」
レイヴィンの握っている情報によれば、そのオルゴールは今から七年程前にこの城に流れたとのことだが。
「協会が確実といって提示してきた情報に間違いはない」
「そう……」
「なんだよ渋い顔して。疑ってるのか?」
「その情報を疑っているわけではないですよ。間違っているかなんて、私では判断できないですし」
「じゃあなんだよ。眉間にシワがよってるぞ」
だってレイヴィンは気にならないのか。アンジュはそれが疑問で仕方ない。
「……あの」
「なんだよ」
アンジュは言い淀みつつ、言おうか言うまいか迷っていた。
宝の手掛かりが少ないという状況も心配ではあるが、それよりもアンジュの気がかりはレイヴィンがちゃんとセラフィーナに駆け落ちの手はずをまだ相談していないということだ。駆け落ち自体はお互いの望みなのかもしれないが、それにしたって。
「もしも、ですよ。もしもセラフィーナ様がこの計画を嫌がったらどうなさるんですか?」
「まだそんなことを気にしているのか。くだらない」
「くだらなくないですよ。だって、計画が大胆すぎるんですもの。どんなに他の事をがんばっても、彼女が嫌がったら全てが水の泡になってしまいますし……ギリギリまで言わないのはダメですよ。ちゃんと相談したほうが」
向かいの丸椅子に腰掛けていたアンジュは立ち上がると身を乗り出した。
だがレイヴィンはやはりその心配をくだらないと一蹴する。
「俺は奪うと決めたら奪う。あいつが嫌がろうと暴れようと関係ない」
「それじゃあ、ただの人攫いじゃないですかぁ」
仮にも愛し合っている彼女にそんな扱い……その後の関係が上手くいくと思えない。
(レイヴィン様ったら、意外と恋愛に対して不器用な人なのかしら。それとも今までモテすぎてきて、女性に拒まれるという発想がない?)
アンジュの勝手な予想だがレイヴィンの場合あきらかに後者のような気がする。
「レイヴィン様は、女心というものを分かっていません!」
ここはレイヴィンのためだと思いアンジュはピシャリと言い放った。
「はぁ? ……お前に言われるとしゃくだな」
背もたれに寄り掛かっていたレイヴィンはやおらに身体を起こすと、アンジュと同じように身を乗り出してきた。
「な、なんでですか。私はレイヴィン様を想って忠告しているんです!」
「へー……で、女心がなんだって?」
「あくまで私の意見ですけど、大事なことは一方的に押し付けるんじゃなく、こちらの気持ちも確認してほしいものです。ましてや駆け落ちなんて心の準備とか必要だと思いますし」
「気持ちねぇ……つまり、私を攫ってくださいって自分から言うよう仕向ければいんだろ。覚えておいてやる」
「なんかちが~う!」
言いたかったことが上手く伝わらなかった気がするけれど、それ以上踏み込む前にレイヴィンがアンジュの言葉を遮った。
「とにかく。お前は余計なことに頭を悩ませなくていい」
「そんなっ」
「これは、俺とセラフィーナの問題だ。そうだろ」
「っ……そう、ですね」
そう言われては、もう口出し出来ない。
だって自分はただの使い魔で二人の関係にとやかく言える立場じゃないから。
「さて。まずはこの城に仕えている中で古株を探して情報収集だな」
気まずくなった空気を無視するように、レイヴィンは軽やかに長椅子から立ち上がった。
「古株……初老の執事さんとか?」
「ああ、そうだな。あとは……」
その時。ハッとなにかに気付いたレイヴィンが突然小さな声で「隠れろ」と言った。
なにかと思いながらも、アンジュは反射的に隠れる場所を探したのだが、時は既に遅し。
「レイヴィン、よかったらこれから――」
「っ!!」
ノックもなしにセラフィーナが部屋に入ってきた。
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