予兆。19
《本当に俺の両親がクソで申し訳ない!! 本当にダメだよな、あいつら》
《親のことをそんなふうに言うもんじゃないですよ。……まぁ、俺も否定はできませんけど》
「ああ、否定しなくていい。寧ろするな。奈々絵はそのままでいいから。親戚に嫌われてるのなんて気にするな」
「はい、ありがとうございます」
俺は笑って礼を言った。
《迎えが必要だったら連絡しろよ、すぐ行くから》
「ありがとうございます。まだ帰っていいとか言われてないので、わかり次第すぐに連絡しますね」
《ああ。それじゃあ、またな》
「はい、また」
爽月さんの言葉に頷くと、俺は通話を切った。
「あづ、お待たせ」
電話が終わったので、俺は病院に戻って、あづに声をかけた。
「ああ、うん」
浮かない顔で、あづは頷く。
「どうかしたか?」
「奈々、あのさ……俺は、草加達が奈々のこと虐めてたの、本当に知らなくて。俺はあいつらが怜央と友達だったから、一緒にいただけだから」
「ああ。そんなこと、言われなくてもわかってる。それにあれは、どう見ても友達への態度じゃなかったからな」
「うるせ」
「……あづは酒何杯くらい飲んだ?」
「確か缶一個分くらい」
結構飲んでるな。
「そか。身体は平気か?」
そういった瞬間、あづはあからさまに俺から目を逸らした。
「あー、うん。今はどこも痛くない」
「ならよかった。でも手当はするからな」
「うん。奈々は? 大丈夫か? 結構盛大に酒かけられてたけど」
「ああ。さっき検査受けたけど、問題ないって」
「はぁー。よかった。マジで奈々が酒かけられた時相当焦ったから」
ほっとした顔で俺の頭を触りながら、あづは言う。
「ありがとう、焦ってくれて」
「え?」
「……俺、友達が自分のために喧嘩してくれんの、初めて見た。すごく嬉しかった。びっくりしたけど」
そう言って、ゆっくりと口元をほころばせる。
「俺はただ、あいつらの行動が我慢ならなかっただけだから」
「あづと同じ学校だったらよかったな。そしたら、あんなふうにいじめを受けずに済んだのに」
涙が頬を伝う。
考えるのが、あまりに今更すぎる。
それにたぶん、もし俺とあづが同じ学校で、俺がいじめられてなかったら、俺が自殺未遂をしてあづに助けられるなんてことには、絶対にならなかっただろうな。
「奈々、その……過去はなくならないし、奈々が生きるのが後ろめたいって思ってるのは俺にはどうにもできないかもしんねーけど、少なくとも俺らが一緒にいる限りは、もう二度とあんな想いさせないから。……さっきは守れなくてごめん。……次こそ絶対、俺が奈々を守るから」
あづが俺をしっかりと見据えて言う。
「……ハハ。お前、本当に最高だな」
涙を拭いながら笑う。
やっぱり、あづは馬鹿だ。
虐待のせいで今も怪我が痛くて仕方がないハズなのに、こんなことを言うなんて。
でもそのあづの馬鹿さが、今の俺にとってすごく必要なものだった。
「……なぁあづ、一生隣にいろよ」
あづはきっと、その一生があと三ヶ月で終わるなんて夢にも思っていないんだろうな。それがわかっててこんなことを言う俺は、どれだけ残酷なんだろう。
そうわかっていても、言わずにはいられなかった。本当に、心の底から一生隣にいて欲しいと思ったから。
「ああ、居るよ。奈々こそ、俺のそばにいろよ」
「ああ、そうだな。……死ぬまでお前のそばにいたいな」
死が二人を分かつまでなんて、随分漫画じみた台詞かもしれないけれど、それでも死ぬまで一緒にいたい。……いや叶うことなら、死んでも一緒にいたいな。
「いたいじゃなくて、いるんだよ!」
「ハハ。ああ、そうだな」
そう言って、俺は笑って、あづと頷き合った。
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