予兆。3

「……こんな時間に、誰だ?」 

 リビングのソファに座ってテレビを見ている爽月さんが、首を傾げる。

 爽月さんの隣にいた俺は、何も言わずインターホンのモニターを見に行った。すると、パーカーのフードを被って顔を隠している少年がいた。

 ……あづか?

 顔が見えないから確信はないが、俺の家を知ってる奴なんて、あづくらいしかいない。

 俺は慌てて、家のドアを開けに行った。

「あづ? どうした?」

 あづは顔を伏せて口をつぐむ。

 直後、あづはふらつき、倒れそうになった。俺は慌ててあづの腕を掴んだ。

「大丈夫か?」

「はぁ……。なっ、奈々絵」

 低い、頼りげのない声を出して、あづは俺を呼ぶ。

 そんな鬼気迫るような声を聴いたのは、大雨のあの日以来だった。掠れたその声を聴いただけで、只事でないのがわかった。

「……お、お腹空いた」

「……は?」

 空腹でふらついたのか?

 嘘だろ!

「……飯、食う? カレー余ってるけど」

 何も言わず、あづは頷いた。

 リビングに戻ると、爽月さんがいなくなっていた。どうやら、気を利かせて部屋に行ってくれたらしい。

 俺はあづをリビングのテーブルの前にある椅子に座らせると、キッチンに行って、カレーライスを用意した。

「美味!!」

 カレーライスが入った皿とスプーンを渡すと、よっぽどお腹がすいてたのか、あづはどんどんかきこんだ。

「夜ご飯食ってなかったのか?」

「小遣い尽きてさ」

「先生夜ご飯作ってくんなかったのか?」

「……くれたことねぇし」

 小声でそう言ってから、あづは慌てて口を片手でおさえた。

「くれたことない?」

 飯作ってもらったことないのか?

「……なんでもない。やっぱ家帰るわ」

「泊まってけよ。布団余ってるし」

 あづの頭を撫でて、俺は言う。

「わかった」

「じゃ、俺の部屋に布団用意しとくから、風呂入って来いよ。身体洗うタオルは、風呂場にある俺のあかすり使っていいから。着替えとバスタオルは、布団用意してから、俺の持ってく」

「……うん」

 小さな声で、あづは頷いた。

「もしかして、俺のじゃ小さいか?」

「え? 奈々、服のサイズいくつ?」

「Sだけど」

「それならへーき。俺もSだから。風呂どこ?」

「こっち」

 俺はあづを風呂場に案内してから、爽月さんの部屋に行った。

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