神のお告げ。3

 俺はあづに会うのが嫌だった。あづは俺がどんなに突っぱねても来る。そのしつこさが俺は気にくわない。それに、異常だ。――子供が学校をさぼってるのを親が気にしないなんて。

 さぼってるのを知らないわけではないだろう。あづが言わなくても、先生とかから連絡が来るはずだ。――まさか、親が休ませてるのか? そうだとしたら休ませる訳はなんだ。虐待。いや、金を稼がせるためか? そうだとは思えなかった。

 あづは底抜けに明るく、俺と正反対の奴だ。

 虐待を受けたり、親にこき使われたりしているようにはとても見えない。それならなんで平日も朝から来れるんだ。

 神様が言っていた。――これ以上関わったらろくなことが起きないと。いや、第六感が告げていた。仲良くなるなと。

 それでも俺はあづを拒否れなかった。さっさと捨てればいいのに。姉のことをいったら、どうせこいつも俺を捨てるのに。どうせこいつも、親戚や同級生と同じように俺を人殺しというに決まっている。そう思うのに、俺はあづの優しさを拒否れなかった。帰れって言うくせに、先生に言って病室から追い出したりする気になれなかった。

「なえ、おはよ!」

「……帰れ」

 知り合ってから一か月半が経っても、懲りずにあづはやってきた。

「それ毎日言われてるんだけど。まじ嫌だわお前のそういうこと」

 丸椅子に座り、顔をしかめてあづは言う。

「嫌なら来なければいいだろ」

「来るよ。嫌なのそこだけなんだから」

「……あっそう。お前めんどくさいな」

「それお前にだけは絶対言われたくねぇ。お前の方がよっぽどめんどくさいからな? どんだけ心開く気ないんだよ。頑固か」

 あんなことがあれば頑固になって当然だ。

「うるせぇ。お前学校は? 今日平日だろ」

 今日は水曜日だ。学校がないわけがない。それなのにあづは朝から病室に来た。

「サボった」

「なんで」

「そんなのお前に会いたかったからに決まってんじゃん」

 笑いながらあづは言う。

「なっ! お前もう帰れ」

 戸惑い、俺は叫んだ。

 そんな風に言われたのは、初めてだった。

 会いたいなんて同年代に言われる日が来ると思ってなかった。どうしようもなく胸が締め付けられる。泣きそうだ。俺は慌てて顔を隠した。

「だから帰んねぇって。なんでそんなに帰って欲しいんだよ。俺邪魔か?」

「そうじゃねぇけど……」

 あづから顔を背ける。

 邪魔ではない。付き合い方がわからないんだ。会いたいとか、話聞きたいとか言われても困る。なんてかえせばいいか分からないから。

「じゃあいいじゃん」

 嬉しそうに笑ってあづは言う。

「ああもうわかった。……好きにしろ」

 頭を抱え、小声で俺は言った。

 その日からは確実にあづに魅かれ始めた。いや、俺はたぶん、あづが姉みたいなことを言ったあの日から、あづに少しだけ興味が湧いていたんだ。その興味か、この出来事でかなり強くなった。

 帰れって言う頻度が日に日に減っていった。

 知り合ってから二か月以上が経った頃には、帰れと全然いわなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る