神のお告げ。2

「じゃあさっさと帰れ」

 あづはベッドの上にあった枕を掴むと、それを俺の顔に向かって放り投げた。

「わっ!?」

 受け身も取れずに俺はベッドに倒れ込む。折れた足に激痛が走って、俺は思わず顔をしかめた。

「奈々絵のバーカ! 明日は絶対話聞かせろよ!」

 そう叫ぶと、あづは大きな足音を立てながら病室を出ていった。

「おっ、おいあづ! 空我!」

 潤はずんずん歩くあづを呼び止めるかのように名前を呼ぶ。空我って名前だったのか。

 枕を顔からどかしながら、俺は二人の声を聞いた。

「空我って呼ぶな!」

 そんな叫び声の後、二人が走る音が聞こえた。走って病院を出てくつもりなのだろう。


「……なんなんだあいつ」

 足音を聞きながら、俺は小さな声で呟いた。

 あづは変だ。異様なほど俺に構ってくる。俺に構ってくる奴なんて家族以外一人もいなかったのに。

 普通、自殺未遂をした上、助けてくれたお礼も言わない奴にあんなに話かけるものだろうか。俺なら絶対にそんなことしない。

 明日も来るつもりみたいだし、本当に意味が分からない。なんであんなに俺に構うんだ。……俺といたって楽しくないハズなのに。


「だから、来んな。帰れ」

 翌日、また二人は来た。

「帰んねぇよ?」

「あづ、やっぱりもういいよ。せっかく助けてやったのにコイツお礼も何も言わねえし。常識がなってないんだよ。話すだけ時間の無駄だ」

 首を振って潤は言う。

 あづは目を見開く。

「お礼いわないから、常識がないからなんなの? 話しちゃいけねぇの?」

 今度は潤が目を見開いた。

「それは……っ」

 潤は言葉に詰まった。

「そんな決まりないだろ何処にも」

 その言い方はまるで、死んだ姉のようだった。

 ――なんだこいつは。

 ――何を言っている? 意味が分からない。

〝姉弟だってこと以外、仲良くする理由いる?〟 

 草加に女みたいな弟と仲良くして嫌じゃねぇのって言われた時に、姉が言った言葉を思い出す。家族でもないくせに、何でそんな言い方するんだよ……。

「話しちゃいけないとかじゃなくて、一緒にいてもつまんねぇだろ!」

 潤が叫ぶ。

「つまんないから、一緒にいちゃいけないのか?」

「もういい!」

 すねるように言い、潤は病室を出て行った。

「……追いかけなくてよかったのか?」

「あいつと俺親友だし、すぐ仲直りするから問題ない」

 首を振って、得意げにあづは言う。

「……あっそ」

 親友ね。

 昨日は冗談言い合ってたし、本当に仲良いんだな。断じて羨ましくはないが。

 翌日も、そのまた翌日も。あづは毎日のように病室に来た。潤は俺に邪険にされて気が滅入ったのか、あづと喧嘩したあの日以来来なくなったのにだ。本当になんなんだこいつは。

 邪険にしとけばそのうち来なくなると思った。それなのにあづは、来ないどころか、邪険にすればするほど早い時間から病室に来るようになった。

 知り合って二週間が経った頃には、平日にも土日にも朝からも来るようになった。学校があるハズなのにだ。

 平日は毎回朝からきてたわけではなかったが、一週間にある五日間の平日のうち三日は朝からきていた。

 親に叱られたらどうするんだと思ったが、それで来なくなるなら来なくなればいいと思い、俺は平日は来るなとは言わなかった。

 でも、それから一か月以上過ぎても、あづが来なくなることはなかった。

 

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