××たい。3
姉さんは死んだ。
俺が、小学校を卒業した日に。その日、俺は家族とステーキ屋に向かっていた。
要は卒業祝いだ。
いじめがあったから半分以上登校を拒否っていたのに手にした卒業を祝うのはどうなのか。そう思っていたのに、姉の紫苑が上機嫌で祝おうというから、その強引さに推されついのってしまった。
あんなことになるとも知らずに。
結論から言うと、姉は死んだ。いや、姉だけでなく、両親もだ。俺の家族はみんな死んだ。
飲酒運転してるトラックが前から突っ込んできてみんな死んだ。姉に小さな体を庇われて、俺だけ生き残った。俺は姉より十センチは身長が低かったから。俺が姉を殺した。姉に庇われて俺は死なずに済んだ。自分の分まで姉に怪我をさせてしまった。
その酷い事実は、すぐに親戚中に広まった。多少脚色されて。
俺が涙目で姉に助けを求めて、姉が思わず庇ってしまったと、そう広まったのだ。
姉は優しい人だった。
いじめられていたせいで毎日のように泣いていた俺は、いつも姉に励ましてもらっていたから。
絵に描いたような理想の姉だったからこそ、その脚色は余計真実味を帯びた。
嘘だと思う奴なんて、一人もいなかったんだ。
「何でお前が生きてるんだ! 何で紫苑じゃなくてお前なんだよっ!」
葬式で姉が焼かれるのを呆然と見ていたら、突然従兄弟の
爽月さんは姉と交際関係にあった人だ。兄弟はダメだけど、従妹同士は交際も結婚もできるから。従妹同士の交際を冷やかす人もいた。それでも、爽月さんはそれをもろともせず交際を続けた。
そういうことをする人がいるくらい姉は魅力的で、正義感が強い素敵な人だった。死ぬにはあまりに惜しい。――やっぱり、俺が死ねばよかったんだ。
「さっ、爽月さん、すみませ……」
「黙れっ!!」
俺の言葉を遮って、爽月さんは叫んだ。
「プロポーズするつもりだったんだよ、卒業したら! 必ず安定した職に就いて、迎えに行くって、そういうつもりだったのに……っ!!」
首から手を離して、爽月さんは泣き崩れる。
「はぁっ、はぁっ。爽月さん、……本当にすみませ」
息も絶え絶えになりながら言う。
「黙れ! 紫苑に似た声で呼ぶな!!」
俺の言葉を亘っていい、爽月さんは俺を鋭い眼光で睨みつけた。
兄弟は声が似ていることがよくあるけど、姉と弟の声が似てることはあんまないと思う。でも、少し似てるだけで同じに聞こえるんだろう。どちらが死んでしまった時には、なおさら。あまりに悲しい。
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