紗代子 焦り
溜息混じりの言葉の端々に、意外だという含みが混じる。目を細め首を
「まあ、貴女も頑張りなさいよ」
「面白いこと言いますね」
互いに目と目があって、先に
「和幸さんのことは、お父さんには言わないでおくわ。上手くいってるとだけ伝えるから。あと、何かあったら紗代子の方から私に連絡してちょうだい。いくらなんでも和幸さんに捨てられた挙句、帰る家がないんじゃ可哀想だもの」
キッと睨み返すと、すかさず「そんな顔しないでよ」と顔を覗かれた。
「これでも心配してるんだから。あなた一人が住める家くらい、用意してあげるわよ」
娘の行く末を心配してると言った先から、明奈の興味は他にいった。店の前に止まったシルバーのSUV。瞬時に腰回りを指で撫で、身なりを整えた明奈が手を振る。先程の店まで送ってきた男とは別人の、明らかに明奈より二回りも若い男のシルエットが
「紗代子、これだけは気をつけてなさいよ。和幸さんみたいな男が本気になったら、いくら貴女でも、もう無理だから」
唇に人差し指をあて『これからが楽しみね』声にならない言葉を残した。
和幸が本気になる。つまり、美月にということか。開いた口が塞がらなくて、天井を見上げた。
まさか。確かに今は一度寝た美月に対して、複雑な心境かもしれないが、あのひとの気持ちは私にある。どうしたら、あの和幸が美月みたいな女に心移りすると言うのか。
今日、この店まで男に送ってもらったり、帰りも別の男を呼びつけたりと、私への対抗心には言葉が出ない。母を乗せて走り去る車。あの男も母の不特定多数の男のうちの一人なのだ。体の関係があるかないかは分からないが、この母の行為。父が知らないはずがない。知っていて見逃してるんだろう。
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