第20話 異世界転移
大橋警部補達岐阜県警の面々は、有馬邸の建つ丘陵地帯へ続く幹線道路を封鎖する任務についていた。
愛知県警に大損害が出たため人手が足らず、応援に来ていたのだった。
「なんじゃあれは?」
「ッ?警部補」
有馬邸がある方向から真っ黒なドーム状の物が拡大してきていた。
「退避をっ!!」
杉多巡査部長が叫ぶ。
「いや、もう間に合わん」
対照的に大橋警部補は静かに全てを受け入れていた。
「城太郎君っ!!」
最期の言葉は幼く見える彼の友人を心配したものだった。
暗黒の爆発よりも先に到達した衝撃波により、大橋警部補達は体をぐちゃぐちゃにされ死亡した。
お気に入りのカフェ、捜査で知り合った人、たまたま行き会って親切にしてくれた人、全てが暗黒の中に呑み込まれていく。
「……これを俺に見せてどうしたいんだ?」
暗黒のさなか、城太郎はつりさげられるように浮かんでいた。その目前にスクリーンのように各地の城太郎にゆかりのあった人々が死ぬ場面が映し出されていた。
「このままだと東海3県……だったわね?それが消え失せるわ。それをどうにかしたくない?」
暗黒の中に声だけが響く。
城太郎は確信した。今は流暢な話し方になっているが、この声は何度か聞いたことがある。
城太郎の屋敷で接触してきた、途切れ途切れだった話し声の主だ。
「悪質なマッチポンプだ。起動したのはお前だろう」
「もう起きてしまった事はどうしようもないわ。死んでしまった彼らを生き返らせる……厳密にはその死を無かった事にする。には私のいう事を聞くしかないわ」
「お前の言っていることが真実だとは限らない。よりひどい状況になる片棒を担がされる可能性もある」
「私は別に貴方でなくてもいいのよ。そっちのガクが本命だから。ただ、彼が貴方がいいと言っているからチャンスをあげたの」
暗闇のなかから鋼神66が浮かび上がってくる。その眼は城太郎をまっすぐ見ていた。
「…………」
「直近の彼らだけではないわ。30年前の事件もやり直す事が出来るのよ」
「……!」
城太郎がはじかれたように顔を上げる。
「どうかしら?」
「……分かった。どうすればいい」
「あら、思ったより説得に時間が掛からなかったわね。まあ、いいわ」
少し拍子抜けしたような様子で声が続ける。
「あなたにはとある異世界に転移してもらうわ。そこで似たような人たちと戦ってもらいます。見事勝ち残ったらやり直す事が出来るスキルをあげる」
「なんだ。言うことを聞いたら無条件でもらえるのでは無いのか?」
「そう甘くはないわ。私はチャンスをあげるだけ」
「それでお前にどういうメリットがある。なにが目的で戦い合わせる?」
「うるさいわね。教えてクンは嫌われるわよ。貴方は黙って従っていればいいのよ。この場で殺されたいわけ?」
強烈な殺意と魔力が吹き付けられた。今の城太郎では太刀打ちできそうにない。
「分かった。すまない。悪かった。この通り謝る」
「分かればいいのよ」
「ただ、失礼を承知で一つだけ、一つだけ教えてくれ。たのむ」
「……私も暇じゃないんだけど、貴方の謝る姿が無様で面白かったから答えてあげる。なに?」
「俺がこれから転移する世界の名前だ。何か名前が付いているのだろう?教えてくれ」
「【ハスターの収束世界】よ。あれ?私、どこでこの名前を聞いたのかしら?」
城太郎はニタリと笑った。声の主はそれに気が付かなかった。
彼が本当は誰に忠誠を誓っているのかを知らないのだ。
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