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マスターが男に何かを言ったが、その声が私の耳に届く事は無かった。


けれどそれを聞いた男が ふと破顔したのを見る限り、恐らく気の利いた応えを返したのだろう。

一見さんだろうと常連客であろうと、この小さな酒場ではなかなか丁重なもてなしを受けられるのだ。



ジントニックに口をつけるその「お一人様」をもう一度見る。


いかにもサラリーマンらしい銀縁眼鏡が、何となく似合わない。

違和感があると表現した方が、あるいは的確かもしれない。



眼鏡を外したら結構イケメンなんじゃないかしらと思いながら、私も自分のワインを一口含む。


心なしか、ワインの温度が低くなった気がした。


それに反比例する様に、体温は少し上がった感覚を覚える。



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