1

「世知辛いわね」



呟きざまにワインを呷る。



「えぇ、何かと」




短く返したマスターは、出来上がったジントニックをトレーに載せてカウンターから出た。



見飽きたカウンターの奥の景色から目を逸らし、私は彼の歩み寄ったテーブルを見やる。




「……どうも。本当にお一人様にも優しいバーですね」



グラスを受け取った客の男の声が、やけにはっきり耳に届く。


何の変哲もないスーツ姿同様、特にこれといった特徴もない声音だった。



そして言葉通りに彼もまた、せせこましいスツールに独り腰掛けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る