父親

息子の様子は、私の大学の同期から聞いていた。

私の同期は偶然にも、息子が入った予備校の講師をしていたのである。

妻からも高校の時の話は聞いていたが、予備校に入っても息子は、自分の成績に見合っていない大学を目標としていたらしい。

予備校の講義の出席率は低かったようで、成績は結局浪人前とそこまで変わらなかったようだ。

生活費は自分で工面するように言ったので、色々アルバイトもしていたようだが、転々としていたようだ。

妻からも、家賃を滞納しているらしい、など、息子について、良い噂を聞くことはなかった。


結局、息子は私の母校である志望大学には落ち、その大学の近辺にある私立大学に入った。

志望の大学には入れなかったが、また新たに入った大学で勉強し直してくれればそれでいい、と考えていた。


また、別の大学の同期から変な噂を聞いた。

同期は自分と同じ研究室で、博士課程まで進み、今は研究室の助教授になったと聞いた。

その同期と久々に飲み屋で語らう機会があった。

「いやさ、俺の講義に別の大学の奴が紛れ込んでたんだよ」

「別の大学の奴が?」

「でも、そいつ違います、この大学の学生です、って言うんだよ、でも持ってる学生証は隣の大学のだしさ」

「なんか怖いな」

「名前なんだっけな…お前と同じ苗字だったんだよ、それで覚えてたんだよな」

まさか、と思った。

ただ、私も親として、その学生が自分の息子だとは考えたくなかった、認めたくなかった。


結局、息子は大学を中退したこと、何十社か受けたうちの一社に決まったらしい、と妻からは聞いた。

なんとか仕事が見つかってよかった、と安心した数ヶ月後には会社から姿を消した。

会社から直接連絡があったのである。

それ以来、息子は妻に何も連絡はしておらず、妻も私も、会社を辞めてからの行方は把握していない。


そして、次に息子の名前と顔を見たのは、テレビのニュースの中であった。


妻と話した。

一体、どこで、何を間違えたんだろうか、と。

小学生の時の旅行はきっかけにすぎず、どこかで修正をできたのかもしれない、と。

しかし、私は思う。

恐らくだが、あいつを、どのタイミングでも止めることはできなかったのだろう、と。

私も妻と同じだ。あいつの言うことを嘘だとなんて思っていなかった。

いや、仕事に夢中だった私には、妻が見抜けなかった嘘を見抜けるはずがなかったのだろう。

そして、もはやあいつ自身も、自分が嘘をついているという自覚などないのではないかと思う。

あいつは、何者になってしまったのだろうか。

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