俺が犯人の事件簿・ファイル2-4
俺は自分の殺害方法を思い出しながら胸の刺し傷を造る工程を加えて話してみた。凶器は思いつかなかったので『円錐状の何か』という適当っぷりだ。
「そんなバカな。成り立っている」
そりゃあ。実際に起きた殺害を実行した本人が話すのだから成り立つに決まってるだろ。これ否定したらむしろ唯のアホだよ!
「だから言っただろ。こいつ勉強は出来ないバカだけど。名探偵並の推理するんだって」
「そうそう。こいつはバカだけど。前回の名推理もうそじゃないって分かっただろ?」
「ヘヘン。あたしのアニキは確かにバカっすけど。めっちゃすごいんっすよ」
驚く回りをよそになぜか自慢げな幼馴染二人とヤス。何でお前らはそんな自慢げなの?あと人のことバカバカ言うのやめてくれる。お前らの心無い言葉に言われた本人傷ついてるからね。
「しかしアウトドア用品ですか。便利なものがあるんですね。石油だと油の痕跡が残るから殺人だって分かりますが、これだと局所的なので分かりづらいです」
「屋外イベントの出店やるのに重宝するんだ。ただ、使うにも効率的な火の付け位置があったり、着火剤の種類ごとにくせがあるから玄人向けではあるがね」
「なるほど。つまりこの手のものに精通した人物が犯人ということですか」
「アニキは経験も知識も豊富で凄いんっす」
ヤスが胸を張る。出会った頃と違って強調されるようになった胸の膨らみに自然と目が言ってしまったのを意図的に逸らす。ヤスがちょっと不満そうに眉を顰める。
「胸に丸い穴か・・・」
撮影された遺体検分の写真を見る。胸には親指よりも太い穴の黒丸が死体に空いている。小さな円錐状の小さな馬上槍(ランス)を想像する。実際にあるものでそんな凶器見当もつかない。何よりも現場で見つからなかった姿形も無い凶器。傷口の色見が違ったという話から俺はあるものを想像する。今回は鍵でも使っていた。
「推理小説とかだとよくこの手のトリックは凶器が氷なんだよな」
「さすがアニキ。確かに若頭はアイス好きで部屋にはアイス常備のために冷凍庫があるっす。あたしも殺害時間にはアイスの補給に行ってたくらいっす」
袖を引っ張りながらねえねえ聞いてと子供みたいに伝えて来るヤス。知ってる。お前がいない時間帯を狙って犯行に及んだんだから。とは口が裂けても言えない。ヤスが時折見せるこどもっぽい姿は親に対してのそれに見える。虐待していた父親に構って貰いたくてでも出来なかった抑圧からくるものじゃないかと思う。あの糞親の分まで俺が父親代わりをしてやらなくてはと思うのはエゴなんだろうな。そう思い。俺はヤスの頭をパンッと叩いた。
「ヤス。落ち着け」
「叩く必要ないじゃないっすか!?」
「凶器が冷凍庫にあったといいたいのだろうがそれには大きな穴がある」
「穴っすか?」
「そうだ。自身を殺す凶器の氷が冷凍庫に入っていたら誰だって不審に思うだろ。若頭が気づかないはずがない。そうだろ?」
「つまり凶器とばれないものなら・・・・・・はっ、まさか」
ヤスが何か気づいたようだ。
「ジャイアント○ーン」
「はっ?」
ガバッと勢いよく俺を見上げて真剣な顔でヤスは言う。
「凶器はグ○コのジャイ○ントコーンっす」
どうしてその結論に至ったああああ!?
「いや、お前。グリ○のジャイア○トコーンって」
「キンキンに冷やしたアイス。ましてやジャイアン○コーンのコーン先端部の包み紙は尖っていて十分凶器になるっす。何度買出しでビニール袋を○ャイアントコーンの先端に突き破られたことか!」
お前は何でそんな憎しみの篭った目でジャイ○ントコーンを語るんだよ!?
険しい目つきでグニニニとヤスが歯噛みする。本当に怨んでるようだ。
「なるほど。ジャイアントコーンが凶器なら・・・・・火事の中で凶器が燃え尽きて消えてしまったのも納得がいく」
納得いかねえよ!
同意する警察連中を俺は勢いよく振り返って見る。全員ウンウンと頷いている。
「ロッ○のザグ○ッチではこんなふうにはいきませんもんね」
「ああ、○ッテの○グリッチは横長で丸い傷跡は出来ない。何よりもコーンの先端が尖っていない」
他メーカーの類似品の話なんてどうでもいいわ。
「おい!すぐにコンビニに行ってジャイアン○コーンを買ってこい!」
警察もコンビニに買いに行かせるし!?
「あ、あの」
野次馬の群れから一人の女性が前に出てくる。ガサガサと手に提げたコンビニの袋をまさぐると赤いパッケージの円錐を取り出した。
「ジャイアン○コーンなら私がここに来る前にコンビニで買ったものがあります。よかったら使ってください」
「ご協力に感謝します」
アイス買ったならさっさと溶ける前に家帰れよ!
長時間野次馬なんかやってんじゃねえよ!
ご協力に感謝しますって警察も受け取るんじゃねえよ!
声に出さないだけで俺のツッコミは留まるところを知らない。
よくよく考えれば結構時間も経ってるのに減らない野次馬も凄い。
そうして受け渡されたジャ○アントコーン。しかも定番のチョコナッツおいしいよね。を検視官が実際に遺体の傷に当てに行く。そして帰ってきた検視官は驚くべきことを口にする。
「・・・ぴったりでした」
そんなバカな!?
若頭を殺したのは俺だ。俺が縄で椅子に縛った後、誰かがやつにジャイアントコーンを突き刺して殺したやつがいたというのか?
いやいやいやいやありえねえ~。そのときには建物はすでに火事で燃えていたんだぞ。火をつけたのは俺だぞ?出火もとの部屋にわざわざ侵入して若頭に止めを刺したやつがいるのか?しかもジャイアン○コーンで?
「そんなわけないだろ。尖ってるっていったって紙だぞ?井○屋のあず○バー並みの強度があるなら別だが紙なんだぞ?」
「さすがアニキっす。確かに○村屋の○ずきバーなら円錐状に加工できれば凶器になるっす」
俺の言葉を肯定するヤス。いや。肯定するなよ。言った俺も悪いけどさ。アイスから離れろよ。というか井村○のあずき○ーを加工できるわけが無いだろ。
「でも紙は思っている以上に丈夫っす。アニキだって紙で指を切ったことあるっすよね。それに紙の繊維を集めて撚れば細くて丈夫な糸だってできるっす。それぐらい紙は脆くもあり、堅くもあるんっす。十分凶器になりえるんっすよ」
珍しくヤスがまともなことを言う。確かに和紙は長く丈夫な植物の繊維で出来ているし、その繊維で作られた紙糸もある。不思議とジャイ○アントコーンの包み紙の先端で人が刺せるような気になってきた。
「って。んなわけあるかあああああああ!」
俺の叫び声が夜空に響いた。
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