第71話〜探索(中)

…………。


途中散発的に現れるゾンビを鎧袖一触に、『宵薔薇の乙女』たちは進んでいく。


その足取りに迷いはなく、ほぼ足を止めることもない。


道も単調で、迷う要素もない。


先頭は前衛のイルとバネッサ。


真ん中には攻撃と支援を行うミーシャと精霊による索敵を行なっているラナン。


殿は全体と後方を対応できるリーダーのダフネ。


ヒナと他数名のメンバーは欠けているが、元々ダンジョンには4人〜5人で入ることも多い。


それぞれも役職に特化しつつも他の役割ができるだけの技能はあるため、連携に問題はなかった。


『宵薔薇の乙女』はパーティー名であり、クラン名でもあるのだ。


…………。


「ねぇリーダー。なんでヒナを残したんですか?あの子の言ってた通り、未攻略のダンジョンなら索敵とか罠探知とかが必要ですよね。あの場合はどちらかと言うと私かイルのどちらかを残すんだと思ってました」


盾士のバネッサは全身を隠せるほどの盾で迫りくるゾンビを軽々と弾き飛ばしながら言った。


壁に叩き付けられたゾンビにミーシャの火炎魔法が飛び、消し炭にする。


「そうそう。私たちも多少の罠なら分かるけど、やっぱ斥候役のヒナは必要だよね。まぁあの子、鼻もいいから大変だったかもだけど」


双剣士のイルの投げた肉厚のナイフがゾンビを壁に縫い止める。


頑丈な紐のついたナイフが引き戻されるのと入れ違いに、火炎魔法がゾンビを焼き尽くした。


「今回のリーダー、なんか少し変ですよ」


「いつもの大胆不敵!だけど冷静な判断力もある!リーダーじゃないよね?」


あまりに直球すぎる言葉。


しかし素直な疑問を口に出来るだけの信頼関係が彼女たちにはあった。


リーダーの判断には従う。


そうしなければ、勝手な行動をしてしまえば、自分だけではなく仲間の命まで危険に晒してしまうから。


けれど彼女たちはただ命令に従うばかりではない。


疑問があれば口にするし、間違っていれば口を出す。


そうやって団結してきたのだ。


…………。


「あー…」


答えに窮するダフネ。


本人にも明確な答えがあったわけではなかったのだろう。


「リーダーはあの子、ナナシ君のことを気遣ったのよね?あなた、子供が相手だと態度が変わるし」


長い付き合いのラナンの指摘に、自分でも気付いてなかった答えに気付いた様子だった。


ダフネは罰の悪そうな顔をした。


「確かにそうかもね。あの子、見た目の割にしっかりしてそうだったけど、まだまだ小さかったし。それにどこか警戒してた。そりゃ片腕で、記憶喪失で、街からも厄介払いされたのも分かってたみたいだし。だから見た目だけでも近いヒナに残ってもらったのかもね」


理由を明確にするために思った事を言葉にするダフネ。


その様子は歴戦の冒険者のそれではなく、戸惑いも見えた。


どことなく子供を案じる母親のようでもあった。


同性のみで構成されている宵薔薇の乙女のメンバーには、その変化がよく分かった。


「随分とあの子に入れ込んでるんですね?」


バネッサがゾンビを弾き飛ばす。


間髪入れずに弾かれたゾンビを炎が包む。


辺りにはもうゾンビの姿はなかった。


「……どうやらこんなあたしにも母性ってやつが残ってたみたいだね」


「「?」」


「なんでもないよ。ほら!探索に集中しな!ダンジョンでは何が起こるか分からないんだから!」

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