第70話〜探索(上)
…………。
『宵薔薇の乙女』の5人はダンジョンを進んでいた。
「どうやらまだ出来てからそう時間は経っていないようだな」
ダフネの言葉に頷く一同。
ダンジョン内はむき出しの岩肌で、低級ダンジョンにありがちな洞窟型だった。
道も複雑なものではない。
地面だけは所々簡単な石畳なので、歩くのに支障もない。
ーーーウボァアアァ…
「この臭いだけがネックよね。『ファイヤボール』」
遅々とした歩みで物陰から現れたゾンビも、副リーダーであるミーシャの魔法で近付く事もできずに火達磨にされ、瞬く間に灰になる。
出て来るゾンビの数も今のところまばらで、歩みを止めるほどでもない。
「魔石はどうします?」
「帰りに回収しましょう。今は調査優先」
「了解」
…………。
ダンジョン内はほとんどの場合、¨なぜか¨一定量の明るさが保たれている。
空気に関しても、火山型や深海型のダンジョンなどの特殊な地形でなければほとんど問題なく、地下深くでも呼吸に支障がない程度の空気はある。
なぜかと言われても、そういうものだとしか言いようがない。
『ダンジョンだから』
ダンジョン内では予想だにしなかった事が平然と起こる。
それは冒険者には常識。
だからこその【冒険者】だ。
「難易度はそこまで高くなさそうね」
「ええ。今のところ出てくるのはゾンビばかり。出来立てのダンジョンだってことも加味して、F級迷宮相当かしら」
ダフネの言葉に、散発的に現れるゾンビを焼き払いながらミーシャが答えた。
ダンジョンのランクは範囲、モンスターの強さ、環境によって細かく分けられる。
このダンジョンは広さこそあるようだが、今のところ別階層への階段は見つからず、出てくるのもゾンビという対処法さえ知っていれば難易度はそう高くないモンスターのみ。
手に入るのもゾンビの魔石のみで旨味はなさそうだった。
「この臭いさえなければね」
「ほんとだよ。臭いだけでもランク一つ上げてE級迷宮扱いしてもいいんじゃない?」
「はいはい、油断しないで、2人とも」
ほぼ全ての敵をミーシャが倒してしまうため暇な前衛2人が軽口を叩く。
ダフネもやはり臭いはきついのか、苦笑いを返した。
…………。
ダンジョンは時間をかけて成長することが分かっている。
その特徴は外の地形・地質に影響されることもあれば、まったく異質な特徴を備えるものもある。
しかしどのダンジョンにも共通しているのは、出来立てのダンジョンは短調でシンプルだということ。
シンプルな洞窟型で奥行きもそこまででなく、道も複雑ではない。
出来立ての、というより、¨生まれたての¨ダンジョンによくある特徴だ。
ダンジョンは成長する。
ダンジョンが誕生するメカニズムなどは研究者の間でも完全に解明されたわけではない。
¨そういうもの¨として認識されている。
冒険者の中にはダンジョン解明を目的に潜る者もいる。
そう言ったものは探求者とも探究者とも呼ばれる。
長き時を生き、生来の好奇心の強い森人のラナンは索敵を精霊に任せつつ、逐次木版に略図や情報を書き込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます