第68話〜沈黙の猫耳
…………。
「…………。」
「…………。」
「………あの」
「…………。」
気っまずい!
かれこれ30分くらいダンジョンの入り口で2人きりだけど、沈黙しかない。
話しかけても反応が返ってこないし、完全に無視されてる。
簡単な調査だから1時間程度で戻るってダフネさんは言ってたけど、もう何時間も経過したみたいに時間がゆっくりに感じる…。
1人で森に行くわけにもいかないし、ましてやダンジョンに入るのはヒナがいる以上無理。
スキルの熟練度を上げたりもできないし。
本当にお荷物状態だ。
下手にスキルでも発動しようものなら容赦なくやられそうだ。
…………。
「…………。」
こうして見てみると、小さいけど綺麗な人(猫?)だな。
肩口で切り揃えられた黒髪は見るからにさらさらで、冒険者のわりに艶やかだ。
それでいて猫のようにふんわりとしていそうで、ヒナさんでなければ思わず撫でてしまいそうに…
…………。
1、なでる。
2、もふる。
3、さわる。
4、なめ…
止めろ!
危ない…
どうも最近選択肢が馬鹿になった気がする。
どんな行為であれ、体に触れる前に俺の首が飛ぶことに間違いはない。
今も入り口の陰で目を閉じて座っているけど、寝てるわけじゃない。
周囲を警戒してる。
もちろん俺の動きも把握しているはずだ。
現に俺の動きに合わせて猫耳がピクピク動くし。
猫耳…
ツヤツヤで、
もふもふで、
やわらかそうな…
…………。
1、なでる。
2、もふる。
3、さわる。
4、なめ…
「だああぁ!」
だからなんでそんな選択肢ばかり出てくるんだ!
思わず叫んでいた。
クールになれ。
猫耳が、いや、ヒナがびくりとしてこちらを見てる。
本当の猫みたいだ。
あ、睨まれてる。
そりゃいきなり叫んだら誰だってな。
とりあえず謝っておこう。
…………。
まだ1時間は経たないのか…。
森のざわめきは届くが、この場だけ沈黙に支配されているみたいだ。
ヒナは最初の位置から全く動いていない。
肌にぴったりと張り付くような材質の服に最低限の防具。
リアルキャッツアイという言葉が浮かんできた。
猫の目?
why?
外観上は今の俺と同じか、少し幼いくらいなんだよな。
確か獣人は歳の取り方や成長による見た目の変化に大きな差のある種族だったはず。
まぁ元の年齢も同じくらいなわけだが。
確かヒナのステータスは…
ーーーーーーーーーー。
種族:黒猫人族(♀14歳)
名前:ヒナ
階位:28
職業:暗殺者
状態:隠形
ーーーーーーーーーー。
だったな。
年齢に対してレベルも職業も色々察して余りある。
「……視線」
「えっ」
2人きりになってから初めて口を開いたな。
アーモンド型の綺麗な瞳がこちらを見てる。
「さっきからチラチラ見過ぎ」
「ご、ごめん……なさい」
さすが職業暗殺者。
視線には敏感だ。
これ以上変に警戒されても面倒だし、静か、に…
「ヒナさんは、なんで冒険者になったんですか?」
せっかくあっちから話しかけてきてくれたんだし、僕の方からも色々聞いてみようかな!
「……なんでそんな事聞くの」
「えっと……」
上手い言い訳…
「ほ、ほら!僕、記憶喪失だし、身分証明書だってないし、街に入れてもやれる事って冒険者くらいじゃないですか。だから色々聞いてみたくて…。ヒナさんはどうしてなのかなって」
「……妹を」
妹?
「……何でもない。静かにしてて」
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