第64話〜ゾンビと迷宮

…………。


時刻は正午。


場所は当初の目的地、放置された馬車付近。


そこには先遣隊と合流した冒険者、兵士だちがいた。


記憶にあるよりも人数が少ないのはアンデッドに殺されたから…


ではなく、周囲の索敵と街への報告のための人員が割かれているからだ。


幸いなことに軽傷者はいても死傷者はいなかったらしい。


この世界のアンデッドには噛み付いたり引っ掻いた相手をアンデッドにする性質はないそうだ。


いや、前の世界には魔法とかモンスターはいなかったはずなのになんでこんな知識があるのかは不明だけど。


傷口を放っておけば病気になったりはする。


そりゃ当然か。


ちなみにアンデッドは死霊系統の魔物の総称で、今回遭遇した人の死体が動いているタイプはゾンビと呼ばれている。


いや、厳密には別の呼び名なのかもしれないが。


異世界の言語が、自動で翻訳されているわけだし、ゾンビは元いた世界の呼び名なわけだ。


元の世界はいったいどんな世界だったのだろう?


ま、もう僕には関係ないか。


…………。


「みんな、聞いてちょうだい!もう知ってる人もいるかもしれないけど、新しいダンジョンが見つかったわ。アンデッドはそこから湧き出ているらしくてね。どうやら地下で横這いに拡大していて、森のあちこちに迷宮への出入り口ができているのが確認されてるわ」


【宵薔薇の乙女】のリーダー、ダフネの良く通る声が、大声ではないのに聞いている全員へと響く。


その見た目は一言で言えば女傑。


イメージとしては戦闘民族やアマゾネスだ。


褐色の肌に露出の多い服装。


長い黒髪が一括りにされて背中に流れ、鍛え上げられた肉体が惜しげもなく晒されている。


うっすらと割れた腹筋と豊満な胸、そしてしなやかさを感じさせる身体つきは猫科の肉食獣を想起させる。


荒々しくも煽情的、男勝りで姉御肌。


男女問わず冒険者からも兵士たちからも人気と信頼が厚いのがよく分かった。


踊る様な身のこなしと曲芸じみた剣術で対人、対魔物ともに圧倒するその姿から【紅舞姫】と呼ばれるA級冒険者。


さすが級冒険者パーティー【宵薔薇の乙女】のリーダーを務めているだけある。


隙らしい隙も見当たらず、観察眼を頼りに判断するしかないが、それでも飛び抜けた実力があることに間違いはなさそうだ。


「すでに街へは知らせに向かわせたけど、どうするかの返答を待っていたんじゃモンスターの漏れ始めている迷宮相手じゃ手遅れになる!あたしたち残留組はチームごとに迷宮の入り口から漏れるアンデッドを始末する組と他の出入り口を見つける組に分かれるわ」


腰に佩た肉厚の曲刀の切っ先を森に向け、それぞれの分担と役割を簡潔に割り振っていく。


そして割り振られた方はチームごとにすぐに移動を開始する。


予めまとめ役には先に指示が出されていたようだ。


決定事項を改めて全体に言って聞かせる時間も惜しいようだ。


スタンピードが起こる前ならばいざ知らず、すでにモンスターが溢れた今、事態は一刻を争うのだろう。


10分としないうちに【宵薔薇の乙女】と数名の兵士、そして僕を残してその場から人がいなくなった。


そして、


「さて、あとはあなたのことなんだけど…」


僕はダフネに2つの選択肢を提示された。

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