第32話〜魂喰らい
無意識にスキル【観察眼】が発動していた。
いつもは意識して行っている観察と情報収集が、一目¨視る¨だけで行われる。
頭に一瞬で情報が入り、めまいにも似た感覚が脳を突き抜ける。
…………。
男。
身長は約175cm。
年齢は推定二十代前半。
針金のようなヒョロリとした体躯をしている。
着ているのは長袖の黒いシャツに黒いズボン。
黒い布で織られたバックパックに黒い靴。
全身が黒づくめの格好をしている。
顔は無精髭の生えた口元あたりまで伸びた黒髪に隠れている。
見える口元には引き攣ったような笑み。
ゆらゆらと揺れるようにして立つ姿は薬物中毒者のようだ。
やや不衛生にも見えるその姿に反してほぼ無臭。
そして目の前にいるのにまるで映像を見ているように気配が感じられない。
右手には艶消しされた黒いナイフ。
…………。
1、先手必勝、ナイフで切りつける。
2、得体が知れない、ナイフを投擲する。
3、全力で逃げる。
4、話しかける。
…………。
1と2はダメだ。
直感が働いた。
攻撃は隙を晒さらすだけだと勘が囁いている。
実力が違いすぎる。
得体が知れない。
脚が小刻みに震え、緊張で身体が強張こわばる。
攻撃しても即座にやられる。
そう、ベルの…
(考えるな!)
余裕がない。
今は余計なことを考えるな。
心を折られるな。
少しでも生き残るための知恵を絞れ。
話しかけて少しでも情報を引き出すんだ。
この部屋は密室で、入り口は塞がれている。
即座に退却できない以上、僅かな可能性に賭ける。
…………。
「……どっから入ってきた」
「あはは、はは。そんなこと、聞いても意味、ある?」
「知りたがりでね。知らないことがあると落ち着かないんだよ」
「ふう、ん。落ち着かない、のは。よくない、よね」
独特な口調だ。
どもるのとは少し違う、普段話し慣れてない様子だ。
けれど、会話ができる。
可能性が僅かにでもある。
「どうやって入ってきたのか、教えてもらえないか?」
「あはは、はは。どうしよう、かな?」
男の体がゆらゆらと揺れる。
ゆらゆら。
そして首をかしげるには曲がりすぎなほど頭を傾ける。
その姿は一言で言えば不審。異常。
「いい、や。教えてあげよう、かな。一つもらってる、し」
もらってる?
何のことだ?
「僕は、普通に入り口から入ってきた、だけ」
「普通に入ってきた?入り口は塞いであったし、外からは見つからないはずだ。それに扉が開いたら気付くはず。答える気がないのか?」
外からはここに部屋があるのは分からなかったはずだ。
ここに入るには少なくとも2人いないと扉が開けられない。
この部屋は間違いなく無人だった。
最初から潜んでいられるようなスペースもない。
この男は質問に答えていない。
「また、質問、かい?」
それに生き物の反応があるならベルが…
(考えるな!)
「じゃあ、答えてあげる、よ。じゃ、対価をもらう、から」
「対価……?」
「じゃあ、いただき、ます」
【魂喰らい(ソウルイート)】
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