第21話〜名無しのナナシ

…………。


ベルに誘導されて進むこと30分ほど。


途中走ったり立ち止まったり、道を戻ったりと結構な距離を動き回った。


道中はとりたてて何かがあったというわけではない。


ただ時折、遠くから何かの鳴き声のようなものが聞こえた。


それと何となくだが、首筋のあたりにチリチリするような感覚が走ることが何度かあった。


その都度ベルが来た道を戻ったり、急に進路を変えたのは偶然だろうか?


移動開始直後は多少の会話もあったが、すぐにベルが口に指を当てて『静かにお願いします!』と言ったので無言のままだった。


…………。


『ここならしばらくは大丈夫そうです!』


ベルがそう言ったのは、何の変哲も無い小部屋だった。


通路は要所要所に松明のようなものがあったが、この部屋にも一本だけ設置されていた。


その松明のようなものも、移動しながらなのであまり詳細まで見れなかったが、よくよく見れば揺らぐことなく火がその形のまま固定されているようだった。


火元も焦げ付いた様子はない。


何とも不思議な光景である。


『えっと……』


「ん?ああ、ごめんごめん」


気になるものがあるとそればかりに注視してしまう。


『い、いえ……。それで、あの、あなたの事は、何とお呼びしたら良いでしょうか?』


…………。


そういえば、自分の名前も思い出せないんだった。


道中で少しずつだがチュートリアル時の記憶は思い出して来たのだが、それ以前の記憶は全くない。


ものの使い方とかはしっかり覚えてるんだけどな。


「名前は……記憶がなくなる前のものって教えてもらえないの?」


『すいません、私の閲覧権限だと生前の記録までは管轄が異なりますので…。問い合わせようにも今は時期が悪いんですよ。ひと月後くらいには可能なんですが…』


今さらりと重要そうな事言わなかった?


それはさておき、さすがに1ヶ月も名無しのままだと不便だな。


適当に自分でつけるか?


パッと思いつくのは…


1、225番と番号で呼んでもらう。


2、225番だから不二子!


3、225番……ニニコ?


4、ナナシ。


5、ジョ◯スミス。


…………。


選択肢が仕事しねぇ!


いや、自分の頭のせいなんだけど。


というかジョン◯ミスって誰だ?


なぜか頭に浮かんで来たんだが……。


そういえば前も織田信長って名前がスルリと出てきたな。


しかしさすがにジョンスミ◯はやめておこう。


それだと残ったまともな選択肢は……。


「不二子とナナシ、どっちがいいと思う?」


『なぜそんな二択に……』


なぜかベルが


Σ(・□・;)


↑こんな顔をして驚いている。


やはりカタカナだと不自然だろうか?


『えっと……』


ベルの顔にはなぜかこちらを窺うような表情が浮かんでいる。


「?どうした」


『あ、いえ、なんでもないです。その二択だとナナシさんがよろしいのでは?』


「よし、じゃあ俺の事はナナシって呼んでくれ」


どうせひと月後には自分の名前が分かるわけだしな。


なぜか疲れた様子のベルは、一度頭を横に振って何かを振り払うような仕草をした後、口を開いた。


『それでは、本来であればチュートリアルクリア後に説明された事項を説明しますね』

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