第16話〜噛み合わない男

…………。


「改めて言おう。良い冒険だった」


いつの間にかソファに座っていた男がそう言ってきた。


一瞬、女にも見える中性的な顔。


不敵な笑みを浮かべた、年齢不詳の男。


光沢のある白銀の髪を床につくほどに無造作に流し、組んでいた足を正した。


そして前のめりになり、拍手をしながら言った。


「私はたとえ拙い冒険であったとしても、弱者が足掻き、生き残ろうともがく様を見ることが好きなのだ。生きる意志を持つ者は強い輝きを発する。それに勝る美しさはない!」


大仰に両手を広げる。


まるで舞台役者のように芝居掛かった仕草だ。


しかしそれが様になっている。


「225番、君の記録だ」


男が指を鳴らすと、男から見て左側、こちらから見て右側の壁にモニターのようなものが現れた。


『最終攻略層、9階層。討伐数563体。残機なし。タイム、103日13時間24分15秒』


無機質な合成音声のような声が、画面に現れた記録を読み上げる。


そして画面には大部屋での戦闘シーンを始めとした攻略中の動画が流れ始めた。


「うーん、いい所までいったねぇ。惜しい、実に惜しい。あと2体だ。あと2体倒せばチュートリアルをクリアすることができた!」


画面の中で誰かが黒い影のようなものと人型の化け物に追い詰められ、とどめを刺されるシーンで停止する。


「君は実に不器用で、回り道ばかりで、もどかしい程に慎重だった。他のプレイヤー達とは比べるまでもない。しかし!最低条件であるチュートリアルのクリア条件すら達成できなかった君だが、その慎重さは賞賛に値するよ」


部屋に再び男の拍手の音が反響する。


…………。


正直頭が混乱している。


情報が一気に出てきすぎて処理しきれない。


何かを思い出そうとして思い出せないもどかしさに加えて、唐突な男の説明。


「ま、待ってく、ださい」


正体不明の相手だが、一応は年上のようなので敬語を使う。


「状況が飲み込めないんですが。貴方は何を言ってるんです?」


クールになれ。


情報を集めろ。


そしてその情報から読み取れる事実を抜き出せ。


「ふむ…」


男は少し考え込むような仕草を取ると、分かった!とばかりに指を鳴らした。


「ああ、クリア特典を忘れていたね。本来ならばチュートリアルをクリアした者だけがここに通されるので忘れていたよ」


そうじゃない。


何を言ってるんだ、この男は?


同じ言語で話しているはずなのに、まるで噛み合ってない。


「さぁ!選びたまえよ。君の冒険には楽しませてもらった。人数不足を補うという名目はあれど、特例なのだ。ならば実力不足を補うという名目でさらなる特例を許そうじゃないか!」


「だから、何を……え?」


1、報酬を選ぶ。


2、アイテムを選ぶ。


3、取得するボーナスを選ぶ。


4、取得するスキルを選ぶ。


5、特典ボーナスを選ぶ。


目の前に選択肢が現れた。

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