第12話 セリアの楽しみ

〜〜〜 セリア side 〜〜〜


コウヤくん達にさようならを告げた瞬間、コウヤくんの自宅から自分の家族が待つ自宅へと変わった。そう自分の世界へと帰って来たのだ。


「はい、着きましたよぉ〜」


「あ、ありがとうございました! ティアラ様、ゼウス様!」


「うむ、今日のことをご両親にちゃんと話すんじゃよ」


「はい、存じております」


お父様達も今日の出来事をにしているんだろうなぁ!


「それではぁ〜!」


「じゃあのぉ〜」


ティアラ様とゼウス様はそう言ってパッと消えて行くのを見届けた後に、家の中へ入ったらお母様が出迎えに来た。


「お帰り、セリア」


「お母様、ただ今戻りました」


「そのようすだと、とても有意義な時間を過ごせたようですねぇ」


「あ、はい。コウヤくんとのデ、デートは、とても楽しかったです」


私がそう告げると、お母様はとても嬉しそうな顔をしていた。


「ところでセリア、アナタが持っているその袋は一体何なんでしょうか?」


「あ、これですか? コウヤくんが買ってくれたんです。中身はお菓子と、私のプレゼントのお人形です」


「まぁっ!? まぁまぁまぁっ!?」


お母様は目を輝かせながら、私に近づいて袋の中身を見つめて来た。


「この子可愛いじゃない! 何て言うモンスターなの?」


「ペンギンって言って、海の中を飛ぶように泳ぐ生き物なの」


「そうなのぉ! 可愛いわねぇ〜!」


お母様は夢中になってペンギンを見つめていた。


「あの、お母様。ここで立ち話も何ですから、リビングへと行きましょう」


「そうね。お見上げもあるから、それを食べながら話しましょうか」


袋を給仕に渡してお母様と共にテラスへと向かう。もちろん袋を渡す際にコウヤくんに買って貰ったペンギンを救出するのも忘れない。


「あらあら、そんなにその子が大事なの?」


「えっ! まぁ・・・・・・はい」


恥ずかしそうに答えるとお母様は満足そうな顔で私を見つめて後、歩き出してテラスに向かいテーブルを挟んで座った。


「奥様、お茶です」


「ん、いつもご苦労様」


お母様は我が家で働いている者への感謝の気持ちを忘れない人なので、他の貴族と違ってちゃんとお礼を言うのだ。


「恐縮です、奥様」


我が家のメイドはそう言うと、一歩下がり佇むが渡しの話に興味津々な顔で見つめて来るので、多分この人もティアラ様から話を聞いている人なんだろう。と理解した。


「それで、そのスイゾクカンって場所はどうだったの? ミヤマさんと進展があったかしら? どういった経緯でそのペンギンを・・・・・・」


「待って下さい待って下さい! 順を追って話すので詰め寄らないで!」


お母様も ハッ!? と言って我に返ったのか口元を扇子で隠しながら席に座った。それとセリア自身は気付いていなかったが、カートの横に立っていたメイドも元の位置に戻っていた。


「では話ますね」


私はコウヤくんの家でクルマと呼ばれる馬車に乗ったこと、そしてコウヤくんと共に、スイゾクカンの中で色んなお魚や生き物を見たこと、コウヤくんと共にイルカのショーを見たことをお母様に話した。

一応トイレでの事件とパンツを見られたことは伏せている。だって恥ずかしくて言えないよぉ〜!


「とても大きい水槽の中に、巨大なサメが泳いでいたなんて、にわかに信じられないわぁ〜。それにおっきくてヒラヒラしたお魚もいるなんて・・・・・・」


「私は実際に向こうの世界で見て来ました」


「セリアがそう言うのでしたら、そうなのでしょうね。その、イルカのショーは面白かったかしら?」


「はい、とても楽しかったです! とても可愛いイルカちゃん達が輪っかの中に目掛けて飛んだり、飼育員さんにボールを尾びれで蹴って飼育員さんに返すのですよ! 水しぶきも飛んで凄かったです!」


「そうなの。素敵なショーを見れてよかったわねぇ〜」


とても羨ましそうに見つめる母親に対して、セリアは 自分だけ楽しんで来てちょっとだけ申し訳ない。 という気持ちが芽生えた。


「あの、機会があればお母様達も一緒に行きましょう?」


「ウフフ、そうねぇ。その頃にはミヤマさんから“お母様義母”と呼ばれているのかしらねぇ?」


コウヤくんが私のお母様のことを、そう呼ぶと言うことはぁ・・・・・・。


セリアは想像しただけで真っ赤になってしまった。


「そんな、それはちょっと早過ぎる気がします! だ、だってまだ! さん付けから呼び捨てになったばかりで・・・・・・そ、それにギュッとして貰えて」


「まぁ、まぁまぁまぁまぁっ!? コウヤさんとの仲が進展したのねぇ!」


お母様はそう言いながらとっても嬉しそうに身体をくねらせて、仕えているメイドはサムズアップを向けて来る。


「ところで、コウヤさんが買ってくれたお菓子はまだ来ないのですか?」


そういえば、中にある四角い袋は食べちゃダメって、もう一個の方を開いて見せてくれたの忘れてた。ま、まぁ勝手に開いて食べないよね?


「そうねぇ。ちょっと確認して貰えるかしら?」


「あ! ついでに、箱の中に入っている四角い袋は食べられないって伝えて」


「かしこまりました」


彼女はそう言うと部屋を出て行く。


「お菓子楽しみですねぇ」


「コウヤくんの話では、おまんじゅうと言って豆を潰して砂糖と混ぜたものを生地で包んだお菓子で、コウヤさんの世界ではメジャーな食べ物みたいですよ」


「そうなの! それは楽しみねぇ!」


そんなやり取りをしていると、先程部屋を出て行ったメイドが血相を変えて戻って来たのだ!


「大変です奥様ぁ!?」


「何かあったのですか?」


「ミヤマ様に買って頂いた、オマンジュウが無くなってしまいましたぁっ!?」


「「ッ!?」」


2人はガタッ!? と信じられないと言いたそうな顔で席を立った。


「どういうことなの? 説明しなさい!」


「あ、そのぉ〜・・・・・・何と言いましょうかぁ〜」


「ハッキリと申しなさい!」


「ハ、ハイッ!?」


お母様の剣幕に怯えたのか、私達に正直に話し始めた。


「厨房で毒味をしてから奥様方に出そうと思ったらしいのですが、余りの美味しさに2個3個と食べてしまったのです」


「その勢いで食べ尽くしてしまったと?」


「いいえ、厨房の方も限度は弁えております! ただ、そこに旦那様が来てオマンジュウを食べてしまったのです。余りの美味しさに我を忘れて全て食べてしまったようです!

あのときに私が一声掛けていれば、こうはならなかった筈です。すみません!」


彼女はとても申し訳なさそうに下を向いてしまった。


「い、いいえ。アナタは何も悪くないわ」


お母様はそう言いながらガックリと項垂れてしまった。


「おお〜っ!? 帰って来ていたのか、セリア! コウヤ殿とのスイゾ、ク・・・・・・・カン、は・・・・・・・・・・・・」


何が帰って来ていたのか。ですかっ!?


彼女達が一歩一歩詰め寄る度に、オルコシスは恐怖を感じているのか後退って行く。


「よくもまぁ、平然な顔をさせて私達の前に出れましたね?」


「え、あ・・・・・・いや」


「コウヤくんが買って来たお菓子は美味しかったですか? 美味しかったから全部食べちゃったんですよねぇ?」


私がお父様にそう聞くと、お父様は顔を青くさせて頭を下げた。


「申し訳なかったぁっ!? 余りの美味しさについつい食べ過ぎてしまったんじゃ! 本当に申し訳ないっ!!」


「アナタの場合は食べ過ぎたのではなく、食べ切ったんでしょうがぁ!?」


「そうですよぉ! スイゾクカンに行った私だって、1個も食べてないのにぃっ!! 美味しかったのですか、オマンジュウは?」


「そうです。味を私達に教えなさい!」


目の前まで詰め寄って来た2人に対して、逃げ場を失ったオルコシスは 申し訳なかった! と言続けて宥めようとするが全く効果がない。


「そ、そうだ! そんなことよりもコウヤ殿と進展があったのか?」


「「そんなことよりも?」」


墓穴を掘った形のオルコシスは2人に散々怒られて、後ろに控えていたメイドはその姿をヤレヤレと呆れていた。

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