第21話 怪我をした代償とアニス学園長の心配。
カーシャさんはプンスカ怒りながらアンリネットの顔にポーションらしき薬を塗っているのに対して、薬塗られているアンリネットの方は、自分がヌンチャク扱えなかったのが不服なのか、不機嫌な顔をさせている。
「このことは旦那様にも報告させて頂きます。いいですね?」
「ムゥ・・・・・・」
「返事は?」
カーシャさんはそう言いつつ睨むと、睨まれたアンリネットは身体をビクッとさせた。
「はい」
「では帰りますよ。皆様、ご迷惑をお掛けしました」
彼女はそう言って軽く会釈をすると、アンリネットと手を繋いで歩き出した。
「まるで親子のようだな」
「あのメイドは噂によると、120年ぐらいグランドル侯爵家に仕えているらしいな」
「120年っ!?」
「ああ、120年」
嘘だろ。一体何歳なんだよ、あの人は?
俺がそう驚いている中、セリアさんが何かを思い出したのかの表情をする。
「昔、帝国の南にある森に住んでいたエルフ達が、よく奴隷商人達が奴隷狩りをされていて困っていたらしいの。
そんな状況を打破したのがグランドル侯爵家で、奴隷狩りをしていた商人達を一網打尽にした上で、奴隷制度は廃止させたらしいの」
この世界に奴隷制度があるのかよ。
「それで多分何だけど、あの人はその森の領主の娘だと思うの。長老は自分の娘をグランドル侯爵家に仕えさせた。って両親から聞いたし」
それが本当なら、彼女は偉い立場の人間ってことになるじゃないか。
「まぁ、嘘か本当か知りたければ、直接本人に聞けばいいことだ」
「本人が答えてくれるのかどうか、わかりませんよ」
「しかし何だ。その武器全部面白いな。その長い杖も武器なんだろう?」
アニス学園長はダンボールの上に乗せている棒術用の棒を、指をさして言う。
「その通りです。あれもれっきとした武器です」
護身用だけどな。
「そうか・・・・・・武器を全部私のところに預けては貰えないか?」
「えっ!? どうしてですか?」
「その武器は魔力を込めることが出来ないだろう?」
「魔力を込める? これでも出来そうな気がしますよ」
ライトノベルの一部の主人公は、剣に魔力を込めて斬れ味をよくしていたし。
「さっき戦ってみてわかったんだが、それには魔力を込めることが出来そうにないな。
ほら、試しに私が持っているこの木の剣と、そのキミの持っているヌンチャクに魔力を込めてみなさい」
アニス学園長が使っていた木の剣とヌンチャクに魔力を込めてみた。
「・・・・・・あれ?」
木の剣に魔力を注げば注ぐほど入っていくが、ヌンチャクの方は全く入って行ってる気がしない。
「どうして?」
「さっきも言ったが、その木の剣には魔力を込められるように付与を施しているんだ。そして、魔力を込めた分だけ硬くなる。人によっては鉄よりも堅い木の剣に出来る人もいる」
へぇ〜・・・・・・ん? 待てよ。
「もしかして俺のトンファーが壊れた原因は、アニス学園長が魔力を込めすぎたからなのか?」
俺がそう言ってアニス学園長の顔を見つめると、アニス学園長は気まずそうな顔をさせていた。
「まぁ、その何だ・・・・・・すまなかった」
「別に怒ってないので、気にしないで下さい」
「そ、そうか」
「はいこれ」
木の剣と一緒にヌンチャクを差し出すと、アニス学園長は両方共受け取ってくれた。
「ではこの武器全部、私の方で預かろう」
アニス学園長はそう言うと、俺のヌンチャクをダンボールの中へ入れた。
「コウヤぁ〜! ただいまぁ〜!」
彼女は笑顔でブンブン手を振りながら、こっちに向かって飛んで来る。
「リタ、おかえり。ティアラ様の元で何をしていたんだ?」
「フッフッフッ、見てて。【透化】」
彼女がそう言うと、目の前から姿を消した。
「あれ、リタ?」
転移魔法を使って家に帰ったのか? いや、それだとおかしい。魔法陣を潜って出て来たり、入って行ったりしていたからな。
「透化。もしかしてリタさん、ティアラ様から透化の魔法を教わったの?」
『その通り!』
そう言った途端、目の前にリタが現れたが姿が半透明でハッキリとしない。
『ふっふ〜ん。スゴイでしょ?』
「スゴイと言いたいけど、今は半透明だから姿が確認出来るぞ」
『そう思うでしょ? 実はコウヤしか私の姿が見えてないし、話もコウヤ以外に聞こえてもない!』
「ええっ!? どう言うことだリタ?」
俺しか見えてない。しかもリタの話が会話も俺しか聞こえてないなんて・・・・・・。
「なぁ、リタが目の前で喋ってるよな?」
俺がリタがいる場所に指をさして言うが、セリアさんは首を横に振る。
「ゴメンなさい。私にはリタさんの姿が見えていないし、聞こえないの」
「私も、セリアくんと同じだ」
「マジか」
『マジよ』
しかし、これはどういうこと何だ? 俺にはリタの姿が見えて声が聞けるが、セリアには見えもしないし、聞こえもしないなんて。
「それが透化魔法の特徴そのものだからな」
「どう言うことですか、アニス学園長?」
「透化の魔法は姿を透明化させる魔法だが、極めれば姿を見せたい相手を指定出来るようになる。例えばそうだなぁ〜・・・・・・。
リタさん、セリアさんに姿を見えるようにさせて、コウヤくんには姿を見えないようにして見せて欲しい」
『了解!』
リタはそう返事をすると、パッと姿を消した。その瞬間にセリアさんが俺が見ていた場所に、視線を向けた。
「リタさんが見えた!」
「えっ!?」
「え・・・・・・うん、そうですね! リタさんスゴイです! 高等魔法を1日で覚えられるなんて!」
もしかして、いや! セリアはリタと会話しているんだ!
「これが透化魔法だ。そろそろ透化魔法を解いてくれないか」
アニス学園長がそう言うと、リタがパッと姿を現した。
「リタ、スゴイ魔法を覚えたな」
「エヘヘ、まぁね。あ! それよりもコウヤ。明後日のことをアニス学園長に話したっけ?」
「あっ!?」
そういえば言ってなかった!
「明後日? 明後日何か用事があるのか?」
「はい、実は明後日に取材に出ることになったんです」
「取材? もしかして、キミが不当に退学させられたことについて、取材が入ったのかい?」
「はい。是非取材をお願いしたいと言われたので、明後日の11時頃に取材を受けることになりました。」
俺がそう説明すると、アニス学園長はニッコリと笑みを浮かべて俺の肩に手を置いた。
「わかった。キミの無実を証明する為にも必要なことだから、ちゃんと取材を受けて来なさい。その日は休みということにする」
「ありがとうございます、アニス学園長!」
「ただし、その日を休みにする代わり、その次の日にここへ来て授業を受けて貰う。忘れないように!」
「わかりました」
まぁ、そういうことなら仕方のないことだ。
「じゃあ、本日の授業はここまでとする。あ、その箱を持ってって貰えないか? 長い棒の方は私が持つから」
「わかりました」
俺はそう返事をすると、ダンボールを持ち上げてアニス学園長の後を追うようにして付いて行く。
「あ、そうだ! 取材の話で思い出したが、向こうの世界で何か変わったことはあったのかい?」
「それでしたら、あの校長が偉い人達に、自宅で大人しくしていろと言い渡されました。向こうの世界では自宅謹慎という罰則ですね」
「そうか・・・・・・自宅で大人しくかぁ」
アニス学園長はそう言いながら、ブツブツと何か言い始める。
「どうしたんですか、アニス学園長?」
「いや、その校長がそのまま自宅に謹慎されていればいいのだが、果たして大人しくしているのだろうか? と思ってな」
「まぁ、そう考え込まなくても大丈夫ですよ。自分の悪行がバレるのは時間の問題の状態ですから」
「そうか。それならいいんだがな」
不安そうなアニス学園長を見つつ、部屋に入る。
「箱は向こうの隅に置いておいてくれ。そしたら帰っていいぞ」
「はい、わかりました」
俺はそう返事をしてからアニス学園長に指定された場所にダンボール箱を置くと、アニス学園長に向く。
「リタ、帰ろうか」
「そうだね」
リタが肩に乗ったのを確認すると、アニス学園長に顔を向ける。
「今日もご指導ありがとうございました。セリアもありがとう」
「じゃあねぇ〜」
リタに至ってはアニス学園長達に手を振っている。
「明日も授業を頑張って受けるように」
「うん、またね。コウヤくん、リタさん」
2人の返事を聞いた後に目を瞑り、 転移 と唱えて自宅へと帰ったが、両親にセリアさんのことをしつこく聞かれました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます