第12話 アニス学園長と訓練
リタと昼食とお喋りを楽しんだ後、自室で服を着替えていた。何で着替えたかって? だって午後からは外で運動とかするって言っていたから、ジャージに着替えてました。
「これでよし! リタ、入って来ていいよ!」
リタが呼ぶと部屋に入って来た。
「うわぁ、ダサい服!」
第一声がそれかよ。
「そんなことを言うなよ。運動用の服だから、運動用の服に着替えるのは当たり前だろ?」
「えっ!? 運動用の服。これがぁ?」
リタはそう言うと、ジャージををジロジロと見つめて来る。
「う〜ん・・・・・・服の強度を強化している感じじゃないし、この服戦闘に使えなさそうね」
「いつこれが戦闘服だと言った?」
フ◯ーザの部下が付けている戦闘用ジャケットじゃないからな。
「ともかく、汚れや汗を気にしなくてもいいように、この服があるだけだから気にしないでくれ」
「わかったわ。さっそく向こうに行きましょう」
そう言うと肩に乗っかったが、耳元に顔を近づけて来た。
「ダサいって言われても、フォローしないわよ」
鼻っから期待してねぇから、フォローせんでええわ!
そう思いながら、靴と鞄を持ち目を瞑った。
「【転移】」
そう唱えた瞬間、きゃあっ!? と言う驚く声が聞こえた。
もしかして俺、またやらかしちゃった感じ?
と思って目を開いたが、ちょっと離れた位置でセリアが驚いた顔をして立っていただけだったので、心配しなくて大丈夫そうだ。
「えっとぉ、どうした? また俺、やらかしちゃったのか?」
「え、あ! 大丈夫。いきなり姿を現したからビックリしただけ」
「あ、そうなんだ」
転移使ったら驚かれるって、どんな風にして転移しているんだ、俺。
「そういえば、服装が変わっているね! どうしたのその服?」
「ああこれ? 運動用の服に着替えて来たんだ」
「運動用の服?」
セリアはそう言うと、ジロジロと服を見てきた。
あれ? この光景さっき見たぞ。
「魔術的な付与がされてないけど、大丈夫?」
「リタと似たようなことを言ってるよ、キミは」
アニス学園長とこれからやる授業に魔術的な付与が必要なのか?
「ねぇねぇ、それよりも校庭に行こう。時間危ないんじゃない?」
スマホの時間を見てみると12時52分。
「そうだった! 行こうコウヤくん」
彼女はそう言うと俺の腕を掴み、走り出したのだ。
「走るってことは校庭まで遠いのか?」
「うんちょっと遠い。それに3分ぐらい前に着いてないと、怒られるの」
走っての移動しなきゃ間に合わないって、そんなに
そのまま無言で校舎を走って行き、校庭に出る頃には2人共ゼェ、ゼェ、と息を切らしていた。
「あの場所から、走って・・・・・・3分掛かるのか」
うん、遠いわ。そういえば誰かとすれ違ったような気がするけど、まぁ気のせいってことにしておこう。
「よく来たコウヤ、さっそく魔法の授業を始めるぞ」
「は、はぃ〜」
走って疲れているけど、遅刻しそうになったのは自分のせいだから、何もいえねぇ。
「ん? お前、服着替えて来たのか?」
「あ、はい。ジャージっていう服に着替えて来ました。向こうの世界では運動用の服として、よく使用されています」
「ふ〜ん・・・・・・」
アニス学園長もジャージをジロジロと見つめて来る。
この人も2人と同じようなことを言いそうだなぁ。
「う〜む、私好みのデザインではないが、着心地がよさそうだなぁ〜。いや待てよ」
あれ、リタ達と反応が違うぞ。
「これを普及させれば、制服が汚れたり破けたりする問題を解決させられるな。コウヤ、終わったらその服を私に渡してくれ」
「ちょっと、俺に裸で帰れ。と言うんですか?」
下に体操着を着ているから大丈夫なんだけどさ!
「あ、いや。すまない。でもそれを学校に普及させたいから、出来れば欲しいんだ」
学校に普及させたい。つまりこの世界には体操服がないのか?
「まぁ、その。替えの方があるのでそれを明日渡しますよ。てか、こっちでは外とか運動する授業のとき、それ用の服に着替えないですか?」
「それ用の服ってのは、コウヤが着ているような服のことか?」
「そうです」
「ない。制服のまま授業を受ける」
「不潔ですね」
汗とか汚れとかびっちり付いたままの服で授業を受けると思うと、イヤと感じる人にとっては気にするだろうなぁ。
「制服には【防汚】の魔法付与があるから不潔ではないが、魔法訓練や戦闘訓練のときに破れたり焦げたりする。その上、買い替えをするときに費用が掛かるから 安く提供してくれ。と前々から苦情来ているんだ」
確かに、ブレザーだけでも値が貼るからなぁ。上下取り替えするとなると、スーツ扱いだから高く付きそうだ。
「だからキミが着ているジャージが欲しいんだ。見た感じだと、制作費用にお金が掛かってなさそうだからな」
・・・・・・なるほど。安い値段のジャージが運動着として普及すれば、制服の値段に関しての文句はなくなりそうだ。
「でもアニス学園長、そのジャージのデザインがちょっとここと合ってない気がします」
「私もここの生徒だったら、絶対に着たくないと思う」
2人が言うのも仕方がない。だってウチの学校のデザインは、ダサイ紫色に両肩と股の側面に黄色いスジが入っているだけで、通っている生徒にも このデザインはダサイ。 と言っていて、不満だらけなのだから。
「我が校に合ったデザインにするから、心配するな」
「後、更衣室を用意しないといけない気がするんですけど、どうするんですか?」
流石に女子を教室で着替えさせるのは問題だろう。
「水泳用の更衣室があるから、そこを利用すればいいだろう。足りないと思えば空き教室を更衣室に改築すれば問題はない」
おう、スマートな対応ですね。
「っと、それよりも授業を始めるぞ」
「そうですね」
こうして雑談していると時間が勿体ないからな。
魔法を実際に使って魔力の制御に仕方などを学んだ後に、休憩を挟んでから武道の授業に取り組んだのだが。
「甘い!」
アニス学園長にそう言われるのと同時に、俺が握っていた木刀をはたき落とされてしまった。
「ん〜・・・・・・足さばきとかは悪くないのだが、剣捌きにクセがあるな」
「すみません。俺、剣術をちゃんと習ってないんです」
剣道を少し習ったぐらいなので、基礎から教えて貰いたい。
「それを先に言って欲しかった」
あれ、もしかして先に剣術が出来ないことを言っておいた方がよかった感じ?
「剣がダメなら他の武器か、魔法主体の戦い方を考えなきゃいけないなぁ。お前のユニークスキルだと、そうだなぁ〜・・・・・・」
「ちょっと待って下さい!」
「ん、どうした?」
「他の武器を使ってもいいんですか?」
「ああ、構わないぞ。ここに通う生徒は授業で普通に槍とか弓とか、自分の得意武器で授業を受けているぞ」
・・・・・・それさ、先に言って貰いたかったよぉ。
「だったらあれを持ってくればよかったなぁ」
「大抵のものならあるから倉庫に付いて来い」
「あ、いや・・・・・・多分こっちの世界にはないと思うので大丈夫ですよ」
多分持って来たら持って来たで勘違いされそうな気がするけど、アニス学園長なら俺のことを知ってるから理解してくれるだろう。
「それとアニス学園長。まだ時間があるのでしたら、格闘技を試してみてもいいですか?」
「ん? カクトウギ?」
「平べったく言えば素手で戦うってことですよ」
この世界に格闘技と言う言葉がないようだ。
「ああ構わない。私の方はそんまま剣を使わせて貰う。いいね?」
「構いません」
負けるとわかっているから、全力で行かせて貰う。
そうしてお互いに距離を取り、構えた。
「行きますよ」
「来い」
アニス学園長の声と共に踏み込み、そして・・・・・・。
「あっ!?」
「えっ!?」
アニス学園長の顔に、俺の拳が突き刺さったのだ。
「う、ぐぅ・・・・・・」
うめき声と共に仰向けに倒れしまったのだ。そこへリタが近づき、顔を叩いた。
「あらぁ〜、伸びちゃってる」
ヤバイことやっちまったぁっ!?
「い、今すぐに学園長を保健室に連れて行こう!」
「私がやるから任せて」
リタはそう言い、アニス学園長の顔に回復魔法を使用して傷を治すと、そのまま顔に水をぶっ掛けて起こしたのだった。
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