ティアラの戦い2

「……動け、お前たち。この場にいる者は一人もここから出すなよ」


 来たか。舞台袖から黒ずくめの暗殺集団のお出ましだ。

 ローラスの私兵である黒服の集団は、戦闘能力も折り紙付き。普通なら勝てまい。我々は本来、ただの臆病な貴族でしかないのだからな。

 さあ掛かって来るがいい。私は逃げも隠れもしないぞ。

 懐からナイフを取り出そうとした一人の黒服に、敵との距離を即座に詰める特殊な歩方で詰め寄る。

 そのまま何もさせずに最初の一人を徒手空拳で地面に叩き伏せると、王子以下、彼らに組する全ての勢力が驚愕の表情を浮かべていた。楽しい。私はハイになっている。


「貴様、一令嬢の分際でどうしてここまで――」

「ふん!」


 また一人、近付いて来た黒服の男を打ち倒した。残りの連中は、警戒したように近づいてこない。

 ふと周囲を見渡すと、会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。平和だった会場に突如訪れた破壊。

 私が迫り来る暗殺者達をちぎっては投げ、ちぎっては投げる。一切の容赦なくレイピアで敵の急所を突き、鮮血が私のドレスと床を濡らしていく。

 彼ら彼女らが驚き逃げ惑うのは当然の状況だろう。

 おっといけない。少し我を失っていたようだ。次は、ローラスが逃亡を図るのだった。


「ローラス、逃げるな!」


 レイピアを投擲する。まさに会場から抜け出す直前の王子の顔、その真横を通り過ぎて、刃が壁に突き立った。

 ローラスには最早、先ほどまで見せていた余裕の表情は見られない。強い畏怖を持って私を睨み付けている。おやおや、色男が台無しだぞ。


 ほう、そろそろ時間か。既に会場には私の手の者が入り込んでいるはずだ。


 魔力を練り、放散させる。これによって、会場の全出入り口に仕掛けて置いた仕掛けを作動させる。この場からは、誰一人として逃さない。

 次々と出入り口が封鎖されていき、誰もかれもが私を脅えたような目で見ている。貴様らは、こいつがやって来たことを知らないからそんな顔が出来るのだ。


「よし、やれ!」


 私の合図に合わせて、物陰に潜んでいた私の仲間たちが姿を現した。命令したわけではないが、戦闘では私だけでなく、彼らも十分に活躍してくれていたみたいだ。そんな彼らには正体を隠すためにフードを被らせている。この理由も後に全員分かるだろう。

 今、最後の黒服を仲間が倒したぞ。王子の私兵は全員倒れたようだな。よしよし。


 会場に潜入していた私の仲間が、卒業生たちを誘導し始めた。何が起きたのかわかっていない者も見受けられる。

 これから君たちは、王子の裏の顔を知ることになる。無知とは罪なことだな。


 ふっ、計画通りだ。安心しろ、私は君たちを害するためにこんな真似をしたのではない。


 と、いつの間にか生徒たちの誘導は済んだようだ。全員が元の位置に戻っている。

 よくやってくれた皆の衆。

 そして私は、先ほどまでローラスが立っていた壇上に上がり弾劾を始める。

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