第23話:くだらなくて、必然的な日常
日を跨いで、何日か。
凄まじい一日を過ごすことが多くなってきた。
最近では、掃除以外の仕事を任されるようになってきたのが原因だ。
いいことだと思うだろう、だが違う。
亜人と言う身分。
女性と言う性別。
この二つのせいで、とんでもなく生活し辛くなっている。
どう言うことか、まぁ聞いてくれ。
まずは買い物だ。
「…あの、それはどういうことですか?」
「そのまんまの意味だ。とっとと帰れ」
そう言いながら、店の親父は仕草で向こう行けと示す。
かなりイラつく。
この親父、俺に商品を売らないと言うのだ。
理由は至極簡単。
亜人だから、だ。
亜人に売るような商品はないんだとさ。
だが俺は拒否する。
勿論だろう。
俺に非があるわけではない。
それどころか、向こうが勝手に言ってきただけの無茶苦茶だ。
…まぁ、訴えようが意味はなさそうだろうけど。
クソ女神が。
俺は前のめりになって、店内を覗く。
が、そこに向かって短いの木の棒を投げられ、変な声出し倒れる。
「ぐへぇ」
俺は額を撫でつつ、立ち上がる。
睨んで、その場から立ち去る。
お使いは失敗、さてどうしたものか。
せっかくだから、店荒らしてやる。
俺は店から少し離れ、隠れてから手を向ける。
「『
風の矢が店の中に突っ込んでいく。
すると、店の商品が風で舞い上がり、大変なことになった。
俺は隠れつつ、それを見つめる。
正当な行為である。
そして卑劣であった。
だが満足感はあったからイイとしよう。
人間としてはダメだけど。
俺は何も入っていない籠を持つと、走り出す。
その場から逃げるために。
商品を買えなかった、帰ったらアナが怒るだろう。
その姿は容易に想像できる。
思い浮かべておいて、ゾッとする。
俺も随分縮こまったものだ。
早く大きくなりたい、数年ぶりにそんなこと考えた。
家に帰ると、案の定怒られた。
と、同時に心配もされた。
「大丈夫?怪我しなかったの?」
「だ、大丈夫ですけど…」
「そう、ならいいわ。たまにいるのよ、石投げつけたりする野郎が」
なんとも言えない。
差別対象がいると、なんらかのものは投げつけたくなるというもの。
人間と言うのはなんともくだらないもので、それで優越感に浸れる。
虐めと似たようなものだ。
まぁ、無視してればどうと言うことはない。
いずれ飽きる。
「ま、あんたは強いから大丈夫でしょ」
「はい!」
俺は籠を放り出し、箒を手に取ると、廊下を掃除する。
前の一件で、あの部屋に入るのを禁止されてしまった。
誰かがいるところで仕事をしなくてはならなくなってしまった。
要するに、特訓はもうできないようだ。
クソ。
それにしてもだ、この廊下すごく長い。
果てしなく長い。
廊下を掃除するときは基本、数十人単位でやるのだが、俺担当の場所は勿論数人。
理由、俺が原因。
亜人だから。
そんな細かいこと気にして、なんでメイドやってんだか。
もうわけがわからない。
まぁ、俺みたいなやつがメイドやってるって時点で随分おかしいんだが。
人数が少ないものだから、当然時間もかかる。
無駄に1日を消費していくような気分になる。
掃除が飽きることはない。
半端洗脳みたいな教育によって、植えつけられたからである。
謎の知識を。
だが、疲れは溜まる。
人間疲れがないと言うのなら、バケモノだ。
俺は箒を逆さに持って、振り回す。
剣の真似事だ。
独学でもいい、せめて戦えるようにしなくてはならない。
男尊女卑、女性が権利的に弱い世界。
ならばせめて、力で勝たねばならない。
筋力的なもので勝てないのはわかってる。
なら技術で進むのみ。
と言うわけで、今日から訓練を始める。
まずは周りに人がいないことを確認。
人がいないならば、箒を逆さに持って、構える。
片手剣と言うのなら、速度重視になるのは確かだ。
俺は軽く呟く。
「『
軽い風が俺の周りを一瞬漂う。
体が緑色の光に包まれるの確認すると、箒を真っ直ぐ向ける。
地を蹴り、駆け出す。
廊下は長く、人数は少ない。
そして俺とそう一緒に居ようとする人はいない。
いくつもの条件が重なった結果、訓練でできる環境ができた。
訓練相手がいないのが唯一の悩みだが、この際それはいい。
俺は敵がいると、仮定しての行動をする。
壁を蹴り、上に登る。
筋力的に無理そうではあるが、壁にぶつかる瞬間、風だけを使えば、ちょうどよく跳ね返る。
呟かなくてはならないのが、ちょっとした悩みだが。
そんなことで、箒を振るが、体が箒の先端に持っていかれる。
要するに一回転して、墜落するのだ。
「うぎゃっ!?」
頭から落ちて、頭痛が響く。
なんとか立ち上がり、座ると箒を投げ捨てる。
俺はため息をつき、軽く呟いた。
「はぁ…まだまだダメだな」
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