隠されたEXスキル

「さて、と」

僕の言葉に、一瞬あいつらがビクッと反応するけど、一旦それを無視する。


「これ、邪魔だね」


僕が目を向ける先にあるのは、さっき間違って焼き殺しちゃった村のヤツら。

その中に僕がこうなった原因が混じってるのを見ると、何だかなぁ、という気持ちにもなるが、まあ、こうなってしまったのは仕方が無い。

今では物言わぬただの焼けた肉片だし、ダンジョンマスターになった事で何も食べなくて良くなった僕からすれば、こんなのはただのゴミ。

そして僕がゴミと認識すれば、こんなゴミでも使い道はある。


「取り敢えず、片付けよっか?」


そして、今度は無言でユニークスキルを発動することにする。


(『完全掃除』、発動っと)


そして次の瞬間、焼かれた肉の塊共は一瞬黒い球体の形をとったかと思えば、弾けて僕の方に向かってくる。

それを僕は全身で受け止めて、魔力操作で眼に集中させて、『蓄積の奇眼』で貯蓄しておく。


それが終わったら、もう一度いいエガオを浮かべながら、いつの間にか下を向いていた顔を上げてアイツらの恐怖に歪んだ顔を確認するとしようかな?


そして顔を上げ、僕の望みの顔を浮かべてるあいつらを見てると……


ヒュンッ、と。

一瞬風を切る音が響き渡り、直後に僕の眉間に鈍い衝撃が走る。

次いでカランと何かが地面に落ちる音が響き、見れば、艶消しの黒が塗られている一本の矢が落ちている。


「……あぁ、そう言えばあんたもいたんだったね」


あいつらが恐怖に引きつったカオをしてる後ろで、村最強の狩人とか呼ばれてた男、たしか名前はエルバンだったっけか?

そいつが弓をだらんと下げて、信じられないものを見た目で僕を見ていた。


「……何をした……!?」


「何も?ああでも、強いて言うなら、これは君らのおかげかな?」


なんか呆然とした顔が一瞬で鬼気迫る表情に変わったから、少し面白くなってつい返答しちゃっけど、まあ、これくらいなら大丈──


「俺達の……おかげ……?……ッ!クッ、耐性系統のスキルか!」


──夫じゃなかったね、普通にバレた。


流石にこの速さでの特定は予想できてなくて、不覚にも動揺が顔に出てしまっていたらしい。

奴らの恐怖に歪んだ顔が、少しだけ正気を取り戻したように見える。


面白くない。


「耐性系統のスキル……ならば、耐性を上回る攻撃を当てるまで」


いつの間にか魔力切れから復帰したらしい剣士の男が、僕の耐性を抜く方法を呟いている。


「アンタ程度のチカラで?ふふ、出来ればいいね?」


それに対して僕は、少しだけ嘲りの感情を含ませて返答する。

コイツは多分、自分の力に自信を持ってる。

僕のダンジョンに入ってからこいつらをずっと観察していて気づいたんだけど、こいつだけが心が折れる感じが全くしなかった。だから、少し注意深く観察して見れば気づくのは容易だった。


「それは暗に、私の努力と才能が、あなたの足下にも及ばない、と?」


案の定、こいつは唇をピクピクと痙攣させながら苛立ちを隠そうともせずにそう言った。


「うん。だってそうでしょ?アンタはさっき、僕からの攻撃とも呼べない攻撃を防ぐために、全力、出しちゃってるでしょ?しかも、魔力を全部使ってまで」


さっきこいつが蹲った原因が魔力切れだってことは、ヒカリから秘密裏に送られてきた念話で分かった。

だから、それの情報を使って、煽る。


「それで無事に生き残れたのはあんた1人。ね?力の差は結構はっきりしてると思わない?」


ニッコリと微笑んでそう言えば、どんどん険しい顔になってく。

……あともう一押し、かな?


「ん?どうしたの?あ、まさか正論言っちゃって頭にきて──」


「──黙──」


「──『皆貫之矢ミナツラヌキノヤ』」







「……?」


『マスター!?』


え?……なんで……胸に、穴が……


「……ゴボッ……」



地面が近づいて……










村最強と名高い狩人、エルバン。

それは決して過大評価などではなく、実際に村にいる全ての狩人が一致団結して勝負を挑もうとも、エルバンには勝てない。

それが単に狩人としての実力を試すためにより獲物を捕らえる勝負でも。

死を覚悟で殺し合いをしようと。


その全てをエルバンはかすり傷一つ程度で勝ってしまう。


村の周囲の山には、よその村と比べると出現する魔物の強さが2段3段、またはそれ以上に高い。

そんな中で、日夜魔物を獲物として捕らえるエルバンの技量は非常に高い。無論、レベルも相応に上がっており、実を言えば現時点での実力はカーターとロスのパーティーを苦戦止まりで仕留めることが出来る。

むしろ、何故このような片田舎で燻っているのかが理解出来なくなるような実力を持っていた。


そんなエルバンが獲得したEXスキルの数が、たった一つ。

純粋に受け取るならば、それはEXスキルの取得難易度の高さと読めるかもしれない。


しかし、そんなことは有り得ない・・・・・


エルバンの年齢は67歳。既に老人と言っても差し支えない年齢なのだが、まだまだ肉体的には現役だ。

そして、狩人として魔物を借り始めてから既に52年が経過している。更に、幼少の頃から訓練として父親から手解きを受け、更には天才とまで言わしめたその才能。

そこまで行って、獲得したEXスキルの数が一つだけ。


もう一度言おう。


有り得ない


と。


まあ、種がわかっていれば簡単にわかるようなものなのだが。


そう、その種とは、実に単純。


エルバンがただ隠していただけ。


それだけだ。


無論、悩みはあった。

慕ってくれている村の者を騙しているという罪悪感。

このような力を持っているのだから、村に貢献すべきだと思う義務感。


しかしそれ以上に、エルバンを苛む感情が、恐怖、だった。


排他的な村は、異端を積極的に排除しようとする。

そのことを知っていた過去のエルバンは、どうすれば自身が排除されないかを必死に模索した。

そして考えついた案が、自身の価値を知らしめること。


勿論、ただ報告するだけでは異端として認定されるかもしれない。

そこで当時のエルバンは一計を案じた。


誰も知らなかった洞窟に魔物を数十匹閉じ込め、腹を空かして共食いを始める一歩手前まで追い込む。その状態の魔物を解き放ち、村へと襲いかからせる。


そして自分は迫ってくる魔物の群れと相対し、絶体絶命のピンチにまで意図的に追い込んでからEXスキルに覚醒したように見せかける。その際に覚醒したように見せるEXスキルは、なるべく直接の危害がない、観察スキルの派生EXスキル《天視》にする。

EXスキル《天視》の効果は単純で、相手の動きを初動から十手先まで限りなく正確に予測することが出来る。また、これは観察スキルの派生であるからなのか、動きを見れば見るほどに予測できる手数は上昇していく。


この力ならば大丈夫だろうと、計画通り、エルバンはマッチポンプの事件を引き起こした。


そして計画通りことを運び、村人の感謝と尊敬のために力を公にしても排他されずに生活することが出来た。


そして今日まで、村人には自分のEXスキルは《天視》だけだ、と偽ってきた。


しかし、状況は変わった。

ダンジョンができ、そのマスターが村では瀕死を維持したままにされていた《悪魔の子》だと知った。


エルバンはその《悪魔の子》の姿から、何も策を弄さず、力の事を正直に打ち明けてしまった自分の姿を無意識に重ねていた。


そして恐怖した。

その重ねた姿から、自分に加えられたであろう制裁を味わって。


それゆえに嫌悪した。

所謂、同族嫌悪という奴だ。


嫌悪は日に日に募り、しかし追放することは村長命令で禁じられ、燻り、何時しかそれは殺意へと変わっていった。


そして今、合法的に、誰もが納得する形で、《悪魔の子自身の写見》を処分する機会が巡ってきた。


そしてその機会はエルバンの歓喜を呼び、長年隠し続けていたEXスキルを表に晒すのには十分な好奇だった。


**********************


name:エルバン


age:67


race:人族Lv.79


job:森狩Lv.49


state:歓喜


Magic aptitude:風、水、光



HP 6300/6300


MP 580/580



str 425


agi 930


dex 932


def 311


magi 308



EX skill

天視

世紛よまぎれ

干渉増大:弓

自己世界マインド・ワールド


normal skill

体術Lv.9

農耕Lv.10



title

村最強の狩人


マッチポンプ


天才


執念



*****************************


*****************************

世紛よまぎれ

音に紛れ、光に紛れ、空気に紛れ、気配に紛れ、木々に紛れ、石に紛れ、人に紛れ、全てに紛れ、世界に紛れる者。

ただただ、其処に在り、何者も疑問を呈すことは無い。


*****************************


*****************************

『干渉増大:弓』

自身が引く弓とそれから放たれるものの干渉領域を広げ、突き破る。


*****************************













「──なんッ!は?え?」


「落ち着け。揺さぶられ過ぎだ」


(尤も、俺も人のことは言えない、か)


自分が倒すものと、そう意気込んで視野狭窄に陥っていたカーターは、流石と言うべきか、すぐに冷静さを取り戻した。

そして冷静さを取り戻したからこそ分かる、自身の行動の迂闊さと愚かさ。


(私、は……)


「お前に何があったのか。それを俺は知らん。しかし、殺意で目を曇らせるな。現に今、お前は死にかけた」


そこまで言われてようやく、カーターは自分が殺意で何も見えていなくなっていたことに気づいた。

そして改めて、肉眼で辺りを見渡してみると、若干の怯えが混じりながらも、それでも歓喜と嘲笑で顔を歪めながら、血だまりの中央で倒れ臥したダンジョンマスター、もとい《悪魔の子》を見つめる面々。


そしてその光景を見て、漸くカーターの思考は現実を受け入れた。


「……私達が……勝ったのですね?」


それは少なくとも、大して意味の無い、確認だった。


「あぁ、流石に心臓をぶち抜かれた上、ここまで血を流して生きてけるやつなんていないだろ」


たが、カーターはその言葉に納得をしていても、何故か感じている一抹の不安を拭えていなかった。


(何故……ダンジョンマスターは私の目の前で死んでいますし、それを私は確認しているはずです……しかし、何故こんなにも不安が……)


「おいにぃちゃん、後は確かダンジョンコアってのをぶっ壊せばいいんだよな?」


思案に耽るカーターを呼び戻したのは、一人の村人だった。

彼は言動の端々、態度の端々から、ダンジョンへの憎しみが透けて見えるように感じる。

何故ならば、さっき消された者達の中に、この男の親友がいたからだ。

いや、この男だけではない。小さな村の中のコミュニティ内では、他人はほぼ家族と同義であり、家族を大量に殺されたことに怒り狂う者達が殆どだった。

ただ、冷静な判断が出来て、今ここで当たり散らしても何にもならないと分かっているから、暴れないに過ぎないだけで、皆心境は同じだった。


「え、えぇ。そうすればこのダンジョンは次第に崩壊し、また新たなダンジョンが出現するまでは単なる洞窟のようなものになるでしょう」


しかしカーターは、そんな態度を責めはせず、逆に幼き頃の自分を見るような気持ちで見た。

反応が遅れたのは、純粋に思案をしていたからに過ぎない。


「ふん、そうか。そんじゃ、どこにあるか探すか」


「えぇ、そうしますか。少々待っていてくださいね。いま、ダンジョンコアの居所を検知する魔道具を」


取り出しますので。


その言葉は、直後に聞こえてきた言葉によって、口に出ることは無かった。


────させないよ、そんなこと────


と。


直後、村人の残り半数以上が消え去り、残ったのはカーターとエルバン、そして真っ先にダンジョンコアを破壊しようと提案した男の計3人だけだった。










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