カースト最底辺ぼっちの俺が、カースト最上位の彼女に嫌われた結果

@khwaai353535

第1話 絶交宣言


 陰山黒人。

 これを我が子につけるか?と、親のセンスを疑いたくなるような名前。

 なんだ、俺にどうなって欲しかったんだ?忍?


 うん、だとしたらかなり親の期待通りに育ったと言える。

 だって、忍って言うのはあれだろ?誰にも気づかれずに任務を遂行し、誰にも名前を知られない者のことだろ?

 それならば、俺と忍の違いなんて言ったら忍をやっていないことくらいなものだ。


 え?それなら全く違うだろって?うん、俺もそう思った。


 いやいや、時代が数百年違えば多分俺は忍になって学校の教科書とかに載って、現代にはファンとかがいたに違いない……。

 有り得ない?知ってる。大体、俺は忍として優秀すぎて名前を誰にも知られない気がする。優秀すぎて!


 とか何とか下らないことを考えながら、廊下を歩く。


 長年ぼっち生活をしていると、脳内での独り言が上手くなるものだ。

 脳内でだったら、とても素早く流暢に話ができる。もう、自分の脳内で繰り広げられるボケとツッコミに自分で笑えるレベル。そして、一人でクスッと笑うレベル。

 そのおかげで、いきなり笑いだすキモい奴と完全に認識されてしまっているんだが。


 他にも弊害はある。

 一番大きなもので言うと、脳内での独り言が上手くなるにつれて、リアルでの会話がどんどん下手になっていくということだ。

 吃るし、キョドるし、話が続かないし。


「はぁーー」


 思わず、溜息が漏れる。

 いつもぼっちでいると、考え事の大半が自分についてのこととなる。もちろん、自分に良い点ばかりがあるわけではないから、その内容は大概が欠点だ。

 そうなると、こんな風に自分の独り言に自分が傷つくなんてことが多々ある。


 もういいかな?

 二年D組の後ろの扉の前に立つ。少し教室の中を見て、安心する。


 俺は、俺の席の周りで、気持ち悪くてキャピキャピうるさいリア充共が集っていたので、居心地が悪くなって教室を出てきたのだ。

 出ても、行く場所なんてないから、行きたくもないトイレに行ったりもした。


 しかし、もう安全だ。


 後ろの扉を開ける。もちろん、音を立てないように最大限の注意を払う。リア充なんかに見られて、汚れたくないからな、俺は。


 そして、下を向きながら、俺の席を目指して歩く。これもリア充を視界に入れて俺自身が汚れたくないからだ。

 え?本当だよ?嘘だろ、とか言わないで!目が合うとキョドるからだろ、とか言わないで!


 心なしか早歩きになる。と、目の前に誰かが立ち塞がった。勿論、俺はその程度で顔を向けない。


 リア充が目の前に来た時の対処法その一。


 えー、ここからテストに出ますよー。ぼっち検定五級に出ますね。


 わざわざ俺のようなぼっちになりたい奴なんかいないか……。いや、忍を目指してるなら、なるべきだ。

 友人、家族から離れ、世界を守る。そんな俺のような忍になりたいのなら!

 え?お前が世界守ってるのかって?嘘です。ただのぼっちです。


 大体、ぼっち検定を受けていないのに、何で俺はぼっちなんだろう……。ぐすん。


 で、話が戻るが対処法だ。

 そう。唯一にして、絶対の対処法……!それは!


 避けよう。俺は、そのリア充より右に一歩横に動き、そのまま俺の席に向かおうとする。が、


 そいつも俺に合わせて、俺の前に移動した。不審に思いながらも、今度は左に移動。すると、奴もまた俺の前に移動する。


 これを十五回位繰り返して、ようやく俺は顔を上げる。もちろん、目は極限まで閉じ、額にシワを寄せ、小さな音の舌打ちつきだ。


 そこには!俺が校内で唯一名前を覚えている三人の女子の中の一人がいた!


 俺が唯一覚えている三大女子のコーナーです!


 エントリーナンバー1!

 二年D組担任の、後藤先生!イェーーイ。


 いや、まだ、二十八らしいし、まだギリギリ女子としてセーフでしょ。


 よし、次行ってみよう!

 エントリーナンバー2!

 校長の、中野先生!イェーーイ。


 あれ?歓声が小さいぞ?中野ちゃんに失礼だろ!うわ、あの顔で中野ちゃんとか言ってると、自分で言ったにも関わらず、吐きそうになる。


 五十過ぎは流石に女子じゃないだろ、と思ったそこな貴方!女の子は永遠に乙女なのです!

 だから、脳内でしわくちゃババアとかそんなあだ名つけたらダメだろ?いや、つけたの俺なんだけどね!


 エントリーナンバー3!

 二年D組の、陽川白乃!


 校内一の美少女であり、パーフェクトヒロイン!勿論、トップカーストの中のトップ!その可愛らしさに、惚れない男子はいない!……らしい。

 勿論、俺は話す相手なんかいないので、全部周りが話しているのを聞いただけの受け売りだ。


 それでも、名前が俺こと陰山黒人と正反対すぎるから、印象に残っていたのだ。


 それにしても、俺が校内で唯一名前を覚えている三大女子。その中でも、生徒枠としては、本当に一人だけの彼女。

 そんな人が一体どうして俺の進路を塞ぐ。


 もう一度、小さく舌打ちしながら、陽川白乃を睨みつける。


 陽川は、すぅーーと大きく息を吸う。


 な、なんだ?告白か?やはり、俺の忍の如き格好よさに、この孤高の存在に恋をしてしまったのか!?

 もしやこいつ、分かる女!?


「あなたが、私のリコーダーを盗んだことは知っているわ!もう、あなたとは絶交よ!」


 と、廊下まで聞こえる大きな声でされた絶交宣言に、俺は思った……。


 俺、こいつと絶つほどの関わりあったっけ?


 


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