相沢優香と行くカラオケ⑤

カラオケ店から出て、外に出ると、夕日が差し掛かっていた。最初は3時間だけのつもりだったけど、延長した結果こんなに遅くなってしまった。




「びっくりした~!聡太、歌上手いじゃん!なに、最初は嫌がってたのってそういうフリだったのか?このこの~!」


「いや、へへへ・・・本当に人前で歌うの苦手だったけど、今日は楽しく歌えたっていうか、相沢の前だと緊張しなくて済んだって言うか・・・」


「おっ。それは、あたしといて楽しかったって事かな?」




ん?と首をかしげてこちらを覗いてくる。




「・・・もう夕方かぁ。ずっと建物の中だから、時間が経つの早く感じるよ」


「はぁ~」




俺は素直に楽しかった、という言葉を口に出来ず、つい誤魔化してしまう。




「そっかぁ。聡太は今日一日中、あたしといて楽しくなかったのか~。残念だなぁ・・・」




凄く悲しそうな顔をして顔を伏せる。瑠璃色に輝く瞳は悲観する色に染められる。あるいは期待を裏切られたような。そんな顔を見てしまう、胸を突かれるような衝撃を受ける。




「あ・・・」




しまった、と思った。これじゃぁ俺が今日一日中、相沢と一緒だったのが嫌みたいじゃないか。


本心を悟られるのに拒否感を感じるとはいえ、それを相手に伝えない理由にはならないんじゃないか。相手との関係を悪化させそうな感情なら隠すのもいいかもしれないけど、好意的なものなのなら隠す意味もないんじゃないのか。


もちろん、恥ずかしいとは思うけど、隠すことで相手が悲しく思うなら素直に伝えた方がマシじゃないのか。そんなんだから、俺は友達が少ないのかもしれない。




「あ、相沢と買い物して、グッズとか見て買って、カラオケにも行って楽しかったよ、本当に。俺は一人でいることが多い、こうやって誰かと出かけるのって、結構新鮮だったよ」


「ホントに?」


「本当だって!嘘じゃない」


「そっかぁ。楽しかったんならよかった」


「うん」




その後、特に言葉を交わすこともなかった。しかし、特に気まずい空気が流れたというわけでもなく、俺と相沢は自然と口数が減ったのだった。お互い元々喋る方ではないというのもあるだろう。




そして、そのまま解散する流れになった。俺らは付き合ってるわけでもないし、家にはちゃんと家族がいるのだから、夜になると家に帰るのは当然である。


俺は最後に相沢の方を振り向き、別れを告げた。




「相沢、ありがとう」


「こちらこそ。どういたしまして」




相沢は俺に向かって、笑顔を見せていた。

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