スカイ・スノー

ハイド博士

大空へ

第1話 夢に見た


 まるで空気のように大空に漂う夢を見た。それはとても気持ちの良いものだった。ナゼそんな夢を見たのかは覚えていない。しかし、その日から魅入られてしまったのだ。大空に・・・



大空を爆音とともにその薄くなった大気を切り裂き複数の戦闘機は曲芸のように飛んでいた。エンジンで圧縮・加速された空気はそこから放たれると大気は急激な気圧差で尾を引いていた。戦闘機の戦闘群集はスコードロン(飛行中隊)を編成しているのは当然だがそれが4個中隊


しかしだ


いったい、どうしろというのだろうか?

ここは戦場だ。敵を討つのが戦闘機の宿命だ。だが、体と脳ミソが別々のことを言っている。



「(こんな処にこんな事をしに来たわけじゃない。でも…)ふっ、オモ…し…ろい」


口角は自然に上がっていた。怖かった。


操縦桿を握る掌には力が入りグローブの中は湿り震えていた。それはただ単に恐怖のせいじゃなかった。武者震いをしていたのだ。敵よりもそんな自分自身が怖かったのだろう。


時折、機体からは機関砲弾が敵に放たれ、被弾した敵機は穴だけの無残な姿になりパイロットはすでに機関砲の餌食になっていた黒煙と火の手が上がりすぐに爆散した。






「こちら、マザーグース。セフテンバーT8に敵航空機アバウト30。当該戦闘空域のすべての迎撃機は敵を殲滅せよ。基地を守れよ!」





体が戦えと云っているが頭では違うことを云っている



「(何か、違和感がする。イヤな予感が…)」



操縦桿を急反転させる。すると主翼の先端からは旋回気流の変化で二筋の白い帯が延び

一機だけがその場を離れ始めた。



「エコー1(ワン) 何かがおかしい、」



「TFT,2-6-3。ユニフォーム!! WA821 AWACSの命令を聞いていなかったのか、…あぁ、クソ、331スコードロンがロストレーダー!(壊滅した!) 今すぐ急行するんだ」







 (その57分前)




それは突然だった。基地内にサイレンが鳴り響いた。そう、緊急出撃のサイレンだ。続けてスピーカーからは館内アナウンスが流れていた。



「防空指揮所よりスクランブル。我々の担当防空識別圏にアンノウン、アバウト50。スーパークルーズ(超音速)にて接近中。敵戦闘機編隊だと推測。スクランブル機は状況を偵察し確認せよ。繰り返す。スクランブル機WA821、823は直ちに離陸準備。他の全機発進準備急げ」


「エコー1、あーー、こちらコントロールタワー(管制塔)、マズイ状況だ。おい、おい待てよ、無断で誘導路TF12に戦闘機が…」


「ナニ、滑走許可はまだだろう。どういうことだ! 誰なんだ!!」


「こちら、認識コードVFX-WA821 そんな悠長な事を言っている場合じゃない。滑走路は空いてるだろ」


「またお前か!…すでにスクランブルはかかっているとは言え…」




それからとうとう滑走路に入りタキシング体勢に入った。そして、エンジンを噴射させながらぐんぐんと加速してゆく……それからアフターバーナーを焚きさらに急加速して離陸するため機首は浮き上がり始めた。前輪が滑走路から離れ、続いて後輪も滑走路を離れるとすぐに車輪を格納した。機首を上げ急速上昇していく機体の周りにはドーナツ状の雲とともにドンという衝撃波が辺りに響いた。整備員の一人がそんな機体を見上げながら思わずこうつぶやいた。



「ありゃー、バケモノだぜ…」




それは機体だけではなかった。それを操縦している男を含めてそうだった。



記録によると命令不服従38回、始末書なんてほぼ毎日(非番の日以外)。基地内でのいざこざも数知れないという。写真だけ見ると気の優しそうな青年だ。そうは見えないのだが……それは悪までも表面上にはだ。

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