チキンカチャトーラ

小川三四郎

第1話

課長!

これはどうしたらいいですか?


課長!

例の坪田さんからお電話ですけど、どうします?


課長!

このお客様、何言ってるかわからないので代わってください!


課長!

すいません・・・

お客様を怒らせちゃいました・・・

えっと・・・


課長!

本社からお電話です!


課長!

部長がお呼びだそうですよ!


課長

課長

課長・・・・


断っておくが、うちに課長は僕だけ

僕はカスタマーセンターの課長職を生業としている

いわゆるコールセンターだ

平たく言えば・・・苦情処理係

僕の仕事を説明する時は、こう言っておけば仕事の内容はだいだい伝わるし、それ以外に説明する言葉を僕は知らない


しかもここには男性は僕だけ

他の10名は全て女性で固められている

ハーレムと同期には揶揄されたりするが、ここはそんな場所ではない

お客様への対応は、そういう部署だから仕方ないにしても、いわゆる社内の女性同士の派閥争いみたいなものの仲裁まで求められる事もしばしば・・・


貴方は管理職でしょ?

だったら部下の管理をするのが仕事なの!

高い給料貰ってるんだから、仕事はしっかりやってくださいね、信頼してるから


こう言う部長も女性なのだ

曰く、同性の部長が社員同士の揉め事の仲裁をするのは望ましくない

若しくは、部下の直接管理は課長の業務だとかで、結局は僕の仕事である事に変更はないらしい


そもそも、さほど高給取りではない

僕の収入が同期のソレより多いのは事実だが、それは残業が支えている要素であり、何故か残業が多いと毎月小言を言われる始末・・・

僕は残業せずにさっさと帰りたいのだが、それを許さない職場環境なのである


水沢明(みずさわあきら)38歳独身

家電メーカーのコールセンターに勤務している一応課長職

これが僕のステータス


そして、彼女いない歴は16年(継続中)

大学を卒業と同時に去っていった彼女以来、そういう人はいないのだ

そういう時間も最近はない・・・

と、言うよりも実はそういう努力を怠っているのだ

怠っているどころか煩わしいとさえ思っている

うちの女性社員にも、そこそこ可愛い娘もいるにはいるが、彼女たちをどうこうしようとか微塵も思わないし、もし思ったとしても落とす気力も技術も時間も情熱もない

ないものはないのだ


何年か前に20代前半のパート社員がいて、何を思ったのか僕如きに好意を抱いてくれた事があった

僕も悪い気はせずに、1回だけ飲みに連れて行って事があったのだが、何故か翌週にその娘は辞めると言って来て、そのまま退職し音信不通になった


手前みそであるが、その娘が僕に好意を抱いてくれた理由に思い当る所はある

そう、彼女の仕事上のミスを解決してあげて、その後のフォローもケアもきちんとしたあげたからだ

無論、それは僕の仕事であり特別な対応をその娘にしたわけではない

でも、それ以外に僕が気に入られるタイミングが見当たらない


ここまでは僕でも分析できる

では、何故その娘はすぐに僕から逃げるように退職してしまったのだろうか?


同期の山下が揶揄するような事は僕はしていない


飲んでる時に触ったりしなかったか?

いきなり告白めいた事はしてないか?

送り狼になっていないか?

飲んでる時まで仕事の説教をしていないか?

いやらしい目で見ていなかったか?


最後のは自分で判定できないけど、基本全部NOだ

普通にイタリアンで食事して、その後に店を変えて軽く飲んだだけだ


何故だろうか?

逃げるように会社を辞める必要が何処にある?


すると山下が何処で飲んだのか聞いてくる


何処で飲んだかと言えば飲み屋だ

酒を飲むのは飲み屋に決まっている

僕のボトルを入れている行きつけの飲み屋の1つに連れて行っただけだ

そもそも、その娘が


課長の良く行くお店に連れて行ってくださいw


と、言うのでリクエストに応えただけだ

すると、山下が言うにはソレが原因らしい


僕の行きつけのお店の1つ

アモール・アイランド

山下とも何度か一緒に飲んだ事がある。どんな店かと言えばいわゆるフィリピンパブなのだが、こちらが望まなければ席に女性が着く事はなく、二人で落ち着いて飲める店


お前は馬鹿なの?、と山下が呆れている


僕はその娘のリクエストに応えただけなのだが、山下が言うには初デートでアモールはあり得ないとの事

アモールは普通の飲み屋で、フロアレディーが外国の女性と言うだけなのだ

何がいけないのか全然わからないが、山下がそう言うならそれでも別にいい


何故ならアモールは僕が唯一リラックスできる店

成人なんだから酒くらい自分の好きな店で自由に飲みたい

そもそもアモールを筆頭に、この飲み屋街に寄ってから歩いて帰れる場所にわざわざ居を構えているくらいで、僕の生活はアモール中心・・・

とは言わないけど、アモールが大切な場所である事に変わりはない


勿論、お気に入りの娘もいる

マリア、インドネシアから出稼ぎに来ている娘

祖国の家族の為にキチンと仕送りを欠かさない律儀な真面目な娘だ

僕はアモールでマリアと飲むために、あの仕事を頑張って給料を貰っている

そう言っても、言われても全然大丈夫なのだ

だって、その通りだから




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チキンカチャトーラ 小川三四郎 @soga-bee

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