勘違いが来て勘違いを呼ぶ
本日美術部の活動は、顧問が用意した彫刻の模写。 部員達は其々の角度から見える彫刻をスケッチブックに描いている。
( そういえば、夕弦さん修学旅行どうするんだろ? まさか男子と同室ってことは……というか、お風呂とかって――――な、何を考えてんだ俺は……っ! )
如何わしい妄想を掻き消す新は、他の部員達と違うものを頭に描いてしまったようだ。
( 今は部活中だぞ!? 絵だ、芸術に集中しなきゃ! ………まあ、夕弦さんならきっと芸術的な―――ああああッ! 俺はあほかっ!! )
頭を掻き毟る新。
皆が集中する静かな教室で目立つ謎の思春期に、
「ど、どうしたの? あらたくん」
明らかに様子がおかしい新を案じて声を掛ける凪。
「ああ、ごめん……何でもないよ」
他の女の子の裸体を思い浮かべていたなどと、口が裂けても言えない。
「何赤くなってるんです? 気をつけて下さい鶴本先輩、この人ムッツリですよ」
「え? そ、そう……なの?」
「は、萩元っ! ち、違うよ凪ちゃん!」
つい声が大きくなった新に、「間宮、うるさい」と顧問から注意が与えられる。
( おのれ萩元……! こいつ、色々と根に持ってるな…… )
形はどうあれ、たった二人の男子部員は大分打ち解けたようだ。
その後、部活が終わった帰り道―――
「……おい、いきなり積極的過ぎじゃないか?」
不満気な声と共に流した目の先には、
「先輩は危険人物ですから、鶴本先輩が襲われる可能性があります」
「襲うかっ!」
ポーカーフェイスの可愛げ無い後輩が横に並ぶ。
「そうだよね、私なんか……」
「そ、そういう意味じゃなくてさ……っ!」
「前は、『いい身体』って――」
「それホントやめて凪ちゃんッ!!」
黒歴史は中々白く消えてくれない。
スタイルに自信の無い凪は本気で落ち込んでいる様子だが、二人相手に連続の突っ込みを入れる新は大忙しだ。
「何ですそれ? 完全に性的なハラスメントじゃないですか」
「あの時はっ、その、色々あったんだよ……」
泣きながら告白されたとも言えず言葉を濁す新。 どうもこの三人だとやられ役になってしまうと顔を顰めていると、
「間宮くんっ!」
「――はい?」
間抜けな声を出す新の前に立ちはだかったのは、何やら余裕の無い顔をしたポニーテールの女子。
「ま、槙野皐月!?」
「ちょっと話があるの! 来てっ!」
「えっ、ちょ、ちょっとぉ!?」
有無を言わさず引っ張られていく新。 理由は大体想像がつくが、また見当違いな話の可能性は大だ。
「「………」」
残された二人は、一瞬の出来事に茫然と立ち尽くす。
やがて凪が、
「あの子、一度教室にあらたくんを迎えに来た子だ……」
「そうなんですか。 何でかモテますね、間宮先輩って」
「……うん」
折角一緒の時間を奪われた凪は消沈している。 それもその筈、連れ去ったのは一応女子だ、無理も無い。
「……さすがに効きますね」
「えっ?」
「いや、好きな子が他の男で落ち込んでるのを見るのは」
珍しく苦笑いの俊哉。
それを見上げる凪は、不思議そうな顔をして言い放った。
「何で萩元くんが落ち込むの?」
「な、何でって……」
( まさか、気付いてないのか? そんなバカな…… )
あれで自分の気持ちに気付かない訳が無い。 そう新にも言っていた俊哉だが、
「そっか、優しいんだね、萩元くん」
落ち込む自分に同調したと勘違いする凪。 俊哉は、
「……ええ、まあ」
自分が好かれる事には鈍感なのか、それとも俊哉に興味が無いのか。 気持ちに気付いてもらえなかった後輩は、とりあえず『優しい男』に甘んじた。
( こういうトコ、ちょっと似てるかもな、間宮先輩に…… )
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます